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病院からは、まるでプログラミングされたロボットのように機械的に帰って来た。
バスにのって、バス停で降りて、アパートまでの道を歩く。
途中で顔見知りに挨拶さえした気がする。
暫く部屋でぼんやりして、それでも社会人としてのなけなしの責任感が、
俺に電話を掛けさせた。
電話をうけた劇団の主宰と看板女優のミズキ(彼女は主宰の恋人でもある。)が、
俺の部屋まで来てくれた。
俺の話を聞き、看護師が揃えてくれたリーフレットに目を通した主宰は、
こめかみをおさえてしばらく黙りこくっていたが、
「治療が最優先だ。ジョー、うちに戻れ。」と厳しい声で言った。
ミズキはさっきから泣いている。
「必ず治して戻ってこい。みんなで待ってる。」
「迷惑かけてすいません。」
やっとの想いでそれだけ言うと、ようやく現実味をおびて来た自分の不運に感情が追いついてきた。
「なんで・・・これから、これからって時だったのに・・・。」
ミズキが泣きながら俺の背中に腕を回してさすってくれた。
主宰は待っているといってくれたが、もし、完治が望めるとしても、
今自分が20代後半であること、治療に何年もかかるであろうことを考えると、
楽観的な考えは全く湧いてこなかった。
二人が帰ったあと、またしばらくぐずぐずしてから、覚悟を決めて実家に電話をかけた。
おふくろが出た。
ひさしぶりの息子の声に喜んだのもつかの間、おふくろも突然の事態に声を失った。
それでもようやく、震えるようにこう言った。
「お父さんにはかあさんから話すから。大丈夫よ。」
また電話するからと、おふくろに言われて電話を切って、大きなため息とともに
床に座り込んだとき、ドアの外で「ジョーさん?」と藤川の声がした。
「病院いったら、もう帰ったって。・・・もう大丈夫なんですか?」
心配そうな声を聞いたら、とたんに涙が出そうになった。
「あ・・・・。ああ。」
「あーー、よかった。・・・・・あの・・・ジョーさん?」
いつもならすぐに開けられる扉が、いつまでも施錠されたままなのを訝って、
藤川が呼んだ。
「悪いけど・・・・。疲れてるんだ。今日は帰ってくれ。」
「・・・・・・。」
「ごめん。」
「いえ。いいです・・・・けど・・・。ジョーさん、ほんまにだいじょう・・・」
「いいから帰れ!」
「・・・・・・・。はい・・・・。」
気圧されたように、ちいさな声で返事して、藤川の気配が遠ざかって行くのを
感じながら、俺は床に踞った。
大声で叫びそうになって自分の拳を口にあてる。
ごめん。
ごめん。
今、お前の顔みたら、俺なにするかわからない。
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