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うちに着くと、おふくろが店から飛んで出て来て、俺が車から降りるなり抱きついてきた。
「あんた、大丈夫なの。起きてていいの。」
頬を濡らしながら訊いてくるおふくろの背をなでた。
「大丈夫。今は嘘みたいに元気。・・・・・ごめんな、心配かけて。」
「ほんとに・・もう。びっくりして・・・。なんでこんなこと・・・。」
車の後ろに回ってカバンを取り出し、俺の腕をつかんで離さないおふくろを、
なかば抱えるようにして、店舗の中を抜けて一緒にうちに入った。
先に送った荷物は、もう着いているようだった。
「あんたの部屋はそのままにしてあるから。」おふくろの言葉に驚いた。
「勘当したのに?」
「それはおとうさんでしょう。わたしはなにも言ってないもの。」
「親父は?部屋片付けろっていわなかった?」
「ああ、最初のうちはね。でも放っといたのよ。どうせ自分じゃなんにも片付けないんだし。」
当時を思い出して憤慨しているおふくろにようやく解放してもらって、
居間の座敷机のまえに座った。
家の中を見回す。
仏壇。鴨居。奥の柱時計。取引先の、大手文具メーカーのカレンダー。
飴いろの古い箪笥のうえに、誰かの北海道土産の木彫りの熊。
テレビ台の角には、俺が子供のころにつけた傷が残っている。
おふくろが、冷蔵庫をあけて、なにか出している音。
磨りガラスごしに、車をガレージに入れた親父が店舗に戻って帳場に座るシルエットが見えた。
京都を出るときは、絶対言うもんかと思ってた言葉。
口にしたら負け、くらい頑に考えてた言葉。
誰に言うともなく、俺はあっさりと、その言葉を唇に乗せてしまった。
「ただいま・・・・。」
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