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俺は藤川に手紙を書いた。
差出人の名前はなかったけど確信があったし、住所もはっきり知らないけど、行ったことがある。
京都の郵便屋さんは、交差する二つの通り名と、上ル、下ル、等の方向さえ
書いてあって、表札の上がっている一軒家なら番地がなくてもちゃんと届けてくれるのだ。
治療が辛いとは書かなかった。
すごく痩せたことも書かなかった。
だから逢いたいとも書かなかった。書いたらあいつは来てしまうから。
大丈夫。生きています。・・・伝えるべきことはそれだけだった。
短い手紙の最後に、
「花が可哀想だから、桜をちぎって送るのはもうやめろ。」と書いた。
でも、うれしかった、とも。
しばらくして、藤川から返事が来た。
迷って迷って、名前を書かずに送ったこと。返事が来てうれしかったこと。
そして、力になれない自分が悔しい、と。
桜の木には、さっき謝ってきた、と書かれていて噴き出した。
封筒の裏には今度はきちんと、住所と名前が書いてあった。
こうして、俺たちは、時折手紙で近況を伝え合うようになった。
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