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おふくろはあの桜の手紙以来、俺に文を送って来る「藤川碧」を女性だと思い込んでいたらしく、
俺が画面の中の、だらしなく前をはだけた悪相の浪人ものを指差して
「藤川だ」と言ったときには
寝込むんじゃないかと思うくらいショックをうけていた。
「だってあんたの・・・手紙が来たときの嬉しそうな顔みてたら、
彼女かしらって思うじゃないの。」
言われてちょっとあわてた。そんなに嬉しそうだったかな、俺。
それにしても画面で見る藤川は、ずいぶんたくましくなっていて、俺を驚かせた。
顔つきはますます悪そうだし、顔の筋肉が柔らかくなったというか、
表情がくるくる変わる。
殺陣ではあっというまに斬り殺されるから、立ち回りの善し悪しはよくわからない。
が、
俊敏な動き、大仰な倒れ方、全身体当たりで演じているのが見てとれた。
あれじゃ、きっと、生傷が絶えないに違いない。
手紙でそのことに触れると、返事には、
確かにしょっちゅう怪我してるけど、全然たいしたことはない。
撮影が楽しくてしかたない、と書かれていた。
去年、藤川から送られてきた便りには、綺麗な女性と小学生くらいの勝ち気そうな
眼をした女の子の写真が同封されていた。
「結婚しました」の文字にすこし動揺した。だけどもちろん祝福した。
子連れの女性と結婚したいきさつは聞いていないが、きっとあいつらしい決断が
あったのだろうと思った。
俺?俺はまだ独り身だ。
結婚はしなかった、というより、しそびれた、といったほうが正しい。
つまんねえと思っていた文房具屋に、今はかかり切っている。
そんな月日が流れて、ある日の便りにこんなことが書かれていた。
「撮影で、近くまで行くことになった。逢えないか。」と。
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