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藤川の手のひらが、すっと俺の肩甲骨から背骨のあたりをまさぐった。
痩せた、と思ったんだろうな。これでも最悪の時期からしたら戻ったんだけど。
でも藤川はそれには触れずに、きゅっと抱く腕に力をこめて
「体調はどうですか?」と聞いた。
「うん。元気だよ。」
「よかった。」少し湿った声で、藤川がつぶやいた。
「ねえ。熱い抱擁はそのくらいにして」ママが口を挟んだ。「座ったら?」
「あ。」
藤川もようやく我にかえったように、辺りをみまわすと、照れたように笑って
俺を解放した。
「遅なってすいません。えらい待たしたんと違いますか。」
「ふふふ。この人、開店前からいるのよ。ずっとそわそわして。」
「ママ。余計な事はいいよ。」
藤川はさっき放り出した荷物を取りに戻ると、紙の下げ袋をひとつ、ママに手渡した。
「初めまして。藤川碧です。丈さんには京都の劇団でお世話になってて・・・・。
ママさんのことは、丈さんの手紙によう書いてあるんですよ。」
「・・・あら。生八つ橋。嬉しい。わたしもジョーちゃんからうかがってますよ。
いつもお着物なの?」
「ああ、はい。普段から着慣れておきたいし・・・。それに、ラクです。」
「とっても素敵。」
ママはうやうやしく京土産を捧げ持つと、奥にいったん引っ込んだ。
入れ替わりにマコちゃんがおしぼりを持ってきて
「お飲み物はいかがいたしましょう。」と、ニヤニヤしながら聞いた。
「マコちゃん、顔。」
俺が小声でたしなめると、マコちゃんはさらに口元をゆるめて
「だってぇ。」と小さな声で囁いた。
「あの話のあとであんなハグ見ちゃったら・・・きゃっ。」
なにがきゃっ、だ。
藤川は俺の背中に手をあてて、まるでエスコートするように奥の席に俺を座らせると、
自分も隣に腰をおろした。
「すんません。俺、あんまり飲めないんで、ウイスキーか焼酎を、
なんかで割ってください。」
マコちゃんにそういうと、あらためて俺の方を向いて、
「丈さん。ほんまにご無沙汰してました。」と頭を下げた。
「テレビ、見てるよ。頑張ってるな。」
俺が言うと、嬉しそうに「はい。」と応えた。
「丈さんがいっつも見ててくれるんで、俺、背中しか映らん時でも気が抜けません。」
「うん。」俺の視線が、彼を奮い立たせているのが嬉しかった。
「はい、じゃあ、15年ぶりの、再会を祝して。」
ママがグラスを持って俺たちの向いに座り、乾杯を促した。
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