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5月も後半に入ると、段々と雨の日が多くなっていった。
それに、なんだか蒸し暑い。
6月に入ったら、祝日は無く、ジメジメした日々が続く。
それは、いやだ。
とは言え、6月には、6月の学校行事というものがある。
6月に行われる行事、一般的には体育祭なんだろうが、この学園は、残念ながら、高等部になると、体育祭や運動会といった類のものはなくなる。
その代わりと言ってはなんだが、スポーツ大会と言う名の、球技大会が行われる。
俺は、体を動かすことは嫌いではないが、ジメジメしたのと雨が嫌いだ。
つまり、6月に運動をしたくない(我儘)
でも、時間はまだスポーツ大会には行かず、スポーツ大会2週間前である。
ちょうど、今日は、スポーツ大会での出場種目決めが、各HRで行われたはずであった。
放課後。
今日は、特に生徒会の用事もなかったので、授業の調べ物をするために、図書室へと向かった。
普段なら、仕事が無い時でも生徒会室に行くのだが、今日は違った。
実は、先週までかなり忙しかったというのも、生徒会室に行かない理由の1つかもしれない。
先週まで、奨学生の条件緩和の意見書を作成して、さらに理事長やお偉い方の前でのプレゼンと、なかなか忙しい日々を送っていた。
まあ、俺がやる、と言い出した会長に、ここは俺がやるべきです、とか言ってカッコつけたのが、運の尽きだ。
条件緩和が成されるかどうかは、今週職会の議題に出されて、よく上の方々が話し合って決めるため、最低でも3週間はかかる。
結果は、スポーツ大会のあとというわけだ。
生徒会室に行かない理由、その2。
もし、生徒会室に誰もいなくて、会長が会議から帰ってきたとき(スポーツ大会実行委員会会議)2人きりになるのが、嫌だから。
実際は、こっちの理由の方が大きい。
図書室は、中間テストも終わり、期末テストまではまだ時間がある今は、かなり空いていた。
だから、誰がいるか、一目でわかるのだ。
「あ……」
思わず声が出た俺の先の人物は、難しい顔をしながら、何かを真剣にやっている兄先輩だった。
いつも調子の良いことばかり言ってる兄先輩の顔には見られず、思わずじっと見てしまう。
そして、視線に気付いたのか、兄先輩がこちらを向いた。
そして、笑って手招きをしてきた。
俺は、それに従うように兄先輩に近づいていった。
「志真くんじゃん。なんで、ここにいるの?」
それは、どちらかと言うと、こちらが聞きたいところなんだけど……
「いや、あの、少し調べ物を……」
「さすが、ガリ勉。みんなと考えること違うね。」
相手を逆撫でする名人だと思う。
俺はもう慣れたからそこまで思わないけど、初対面の人にもこんな感じで、嫌みたらしく言うので、嫌な顔をする人も多い。
大体、そういう時は、弟先輩がフォローを入れるんだけど……
「あれ?今日は、弟先輩と一緒じゃないんですか。」
「俺がいつも椿と一緒にいると思ってんの?いくら双子でも、常に一緒ってわけじゃないから。」
「大体一緒にいるでしょ。」
「……まあ、そうだけど。」
心なしか、兄先輩の元気と勢いがない。
今のような俺の言い方だと、3倍くらいの嫌味が返ってくるはずなのだが。
そして、ここで、俺は兄先輩が腕の下に敷いているものに、目をやった。
どうやら、国語の問題らしいけど、兄先輩は何をやっているのだろうか。
そんな俺の目線に気付いた先輩は、その問題を俺の目の前に出してきた。
「ガリ勉くんは、俺よりこっちのが気になるみたいだね。これは、見た通り国語の問題だよ。」
「なんで、兄先輩は、テスト終わった今、国語の問題やってるんですか。」
「なんでって……俺が頭悪いからでしょ。これ、ちなみに君の担任から出された課題だわ。今回も、テスト、ダメだったからさ。」
「えっ!?兄先輩、頭悪いんですか。」
生徒会の方々は、みんな頭が良いと思い込んでた。
弟先輩は、頭良いって聞いていたが、そういえば、兄先輩については、みんな何も言っていなかった。
「そーだよ。頭の良さは全部、椿に持ってかれた。でも、顔の良さは俺かな。」
なんて笑いながら言う兄先輩だけど、実際、この兄弟顔がよく似てるから、大して顔の良さは変わらない気がする。というか、2人ともイケメンだしな。
俺からすると、この2人のどちらの顔に生まれても嬉しかっただろうな。
でもきっと、2人はお互いに違うところを知っていて、それは俺たち他人にいくら説明してもわからないことなんだと思う。
「あの、兄先輩……」
ん?
俺が、兄先輩の方を見ると、兄先輩は何だか不満そうな何か考え込んでいるような、そんな顔をしていた。
しばらく俺も考えたけど、兄先輩が何故そんな顔をしているかは、わからなかった。
「志真くんさ、その、兄先輩、弟先輩、ってやめない?俺ら揃って、兄弟先輩でしょ?なんか、おかしくない?言いづらいだろうし。」
「すみません。苗字で呼ぶと、お2人とも同じなので、混乱するかと思いまして……。」
「いやさ、普通に名前でいいじゃん。」
「名前、ですか……」
つまりそれは、兄先輩を『翼先輩』、弟先輩を『椿先輩』と呼べと。
確かに、兄先輩はいいけど、弟先輩はなかなか言いにくかった。
でも、やはりこの2人を名前で呼ぶと、また周りが大変なことになりそうだしな。
炎上しそう。
「大体さ、俺はいいけど、弟先輩って呼ばれてる椿の身にもなってみなよ。俺と椿、1時間しか違わないのに、最初に出てきたってだけで、俺が兄貴だよ?椿は気にしてないだろうけど、あんまりよろしくないよね。」
なるほど。
それは、双子にしかわからないことか。
どちらが上でどちらが下なんてどうでもいい。意外とそういうのに、こだわっているのは本人たちより、むしろ周りだったりだった。
俺が名前で呼ぶのを待っている先輩。
「はぁ。わかりました。今度からは、翼先輩と呼ばせていただきます。」
「うん、まあそっちのがいいわ。あ、椿のことも名前で呼んであげてね。」
「はい。そうするつもりです。」
時計を見ると、随分長い間兄先輩……改めて翼先輩と話していたことがわかる。
先輩も元々は勉強していたわけだし。
これ以上、話すのも申し訳ないな……
「それじゃあ、翼先輩。俺は、帰ります。」
「あ、そう。気をつけて。」
手をヒラヒラと振りながら言う翼先輩に一礼をして、俺は図書室を出た。
元々は、調べ物をする予定だったけど、まあそんなに急ぐ用でもない。
これから、生徒会室に行く気にもなれないし。
ここは、大人しく寮に帰るのが賢いだろう。
「あれ?志真くん?」
図書室のドアを開けて、廊下に出たら、またまた翼先輩……と思いきや、顔がそっくり弟の椿先輩だった。
「志真くんも、図書室に用があったんだ。通りで生徒会室に誰もいないわけだ。」
今まで生徒会室にいたらしい椿先輩は、苦笑いでそう言った。
生徒会室に誰もいないと言うことは、会長も今日は会議が終わって生徒会室に寄らなかったということだろう。
ミケ先輩はよくわからないけど、副会長はきっと部活だな……部活?
「椿先輩、部活ではないんですか?」
一瞬目を見開いて驚いたような顔をしたのは、俺が名前で先輩のことを呼んだからだろう。
「副会長は、部活で生徒会室に来てないんですよね?」
「あ、ああ、うん。ユキは、部活行ったみたいだね。でも、今日は自主練の日だから、行かなくてもいいんだよ。」
副会長と椿先輩は、同じ剣道部員だ。
よく2人で部活の大会が近いからと、途中で抜けることが4月に何度かあった。
翼先輩は、部活やってないみたいだけど、それは何となく意外だった。なんかのスポーツやってそうだったんだけど。
「あ、今、翼先輩と中で会いましたよ。」
「えっ……そう、なの。」
おかしい。
今日の椿先輩、何だかおかしい。
元々翼先輩ほど口数が多いわけではないが、話せばそれなりにスムーズな会話をするはずなのに、今日は何だかハッキリとしていない。
そういえば、翼先輩も何だか元気が無かったし、何かあったのだろうか。
「翼、ちゃんとやってた?」
笑顔でそう言ってくる椿先輩に、やっていた、ということを教えると、これまた何とも切れ味の悪いことを言いながら、俺に別れを告げて、図書室の中へと入ってしまった。
2人の間なのか、はたまた、2人以外との間なのかはわからないが、何かあったに違いない。
そんなこんなで、5月も終わりを迎えそうだった。
暑さは、朝に増して今が1番。
夏がやってくる。
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