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ささやかな報復
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「悠さん」
後ろからそっと声を掛け、肩に手を置く蒼牙。
真剣な眼差しを俺に向け、「こんばんは、清司さん。」と軽く頭を下げる。
よほど急いで来たのか、仕事服であるカッターシャツすら着替えていない。
「蒼牙?もう終わったのか、早いな。」
隣に立つ蒼牙を見つめ、嬉しそうな声でそう言う悠くんは本当に可愛くて、振られたばかりなのに欲しくなる。
「いろいろと心配で速攻で迎えに来ました…。変なことされませんでしたか?」
しゃがみこみながらそう言うと、蒼牙は大きく溜め息を吐いた。
「おいおい、酷くない?俺が悠くんに何するって言うんだ。獣じゃあるまいし。」
わざと悲しそうに言うと、「似たようなものでしょ。」とギロッと睨まれた。
…まあね、否定はしませんよ。
「大丈夫だ。心配し過ぎ、蒼牙は。雛森さんいい人で、俺は楽しかったよ。」
にこやかにそう言って、悠くんは俺に「ね?雛森さん。」と笑いかける。
全く、君は本当に俺を揺さぶるのが上手いよ。
そんなことを言われたら、諦めてやろうと思ってたのが難しくなるじゃないか。
「そうだね、また食事に行こうね。今度は蒼牙も誘って。」
俺が席を立つと、悠くんも立ち上がり「ええ、是非。」と微笑む。
「…何だよ。」
俺をじっと見てくる蒼牙に苦笑しながら問う。
「本当に何もしてないでしょうね。」
「してないって。バカだねお前は。」
クスクスと笑い悠くんに手を差し出す。
「今日はありがとうね。…とても楽しかったよ。」
微笑みながらそう言うと、悠くんも握り返しながら「俺もです。」と笑う。
ありがとう、こんな俺を受け入れてくれて。
だけど、世の中には獣がいることも知らなきゃダメだよ。
そう考えて、俺は握っていた手を強く引っ張った。
「…わッ!」
慌ててテーブルに手をついてバランスを取る悠くんの顎を掴み上向かせると、そのままその形の良い唇におれのそれを重ねた。
「…ッ…!」
「なっ!!」
二人が同時に慌てる音と、「キャー!」という周りから聞こえるどよめき。
それらを無視して薄い唇をペロッと舐めると、凄い勢いで悠くんが引き離された。
「アンタ、何してんだ!」
悠くんを腕に抱き締め素の言葉で怒る蒼牙と、口元を押さえて真っ赤になった悠くん。
二人を見てクスクスと笑いが溢れる。
大人しく引き下がってやろうかとも思ったけど…このくらいの報復したって良いだろう?
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