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引っ越しの夜2
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先に風呂に入り、冷房の効いた部屋で火照った身体を休める。
俺と入れ替わりで風呂に入った蒼牙が上がってくるのを待ち、自分が用意したものを見つめた。
リビングの机の上には不動産から渡された俺の鍵が置いてある。
以前、俺のアパートの合鍵を渡した時のことを思い出す。
出勤前に渡した合鍵を蒼牙は本当に嬉しそうに受け取った。
あまりにも嬉しそうに笑ったのが可愛くて、思わずキスをしたくらいだ。
あの時の蒼牙を思い出し、鍵を見つめながら笑ってしまう。
すると、「思い出し笑いですか?」と上から声が降ってきた。
「···上がったのか。」
急に聞こえた声に少し驚きながら、横に座ってきた蒼牙に視線を向けた。
そこには首にタオルをかけ、上半身裸の蒼牙がいて。
まだ濡れた髪先からは滴が落ちている。
「お前、また髪を濡らしたままで。クーラーも効いてるから本当に風邪引くぞ。」
蒼牙の首にかけてあるタオルを手に取り、頭をワシャワシャと拭いてやる。
チラリと見えた蒼牙の顔が笑っていて、その形の良い頭を乱暴に拭いた。
「いたい、いたい!強いですって!」
「これくらい我慢しろ。拭いて欲しいんだろ?」
「う、はい···」
わざと濡れたまま出てくる蒼牙に呆れるやら、可愛いやら。
たまにこうして子供のような真似をしてくることが可笑しくて、クスクスと笑いながら拭いていった。
「···ねぇ、悠さん。」
「何だ?」
暫くは大人しく拭かれていた蒼牙が、下を向いたまま聞いてくる。
「風呂から上がったらしたいことって、何ですか?」
拭いていた手首を掴まれ、顔を上げた蒼牙が俺をじっと見つめた。
····そうだった。
「ん、あぁ、大したことじゃないけどな。」
蒼牙の手を逆に掴み直すと、俺は机に手を伸ばした。
「···はい、この部屋の鍵。」
「え···?」
蒼牙の手のひらに俺の鍵を乗せると、蒼牙はキョトンとした顔で鍵と俺を交互に見つめた。
それもそうだろう、蒼牙だって同じものをもう持っているのだから。
「これは不動産から俺が受け取った鍵だ。だからお前に渡したい。」
「悠さん···」と俺の名を呟く蒼牙に微笑みかけ、俺は続けた。
「合鍵を渡すのは家族以外でお前が初めてだったよ。そしてこれからも、俺の住む部屋の鍵はお前にしか渡さない。···俺の言ってる意味、分かるな?」
「····はい。」
小さいけれど、確かな返答。
蒼牙の顔はみるみる赤くなっていって、その本当に嬉しそうな、照れた表情に「よし。」と一人満足した。
「ほんと、どれだけ男前なんですか···」
渡した鍵をギュッと握りしめたまま、蒼牙は反対の手で顔を隠してしまう。
濡れた髪の隙間から見える耳は赤く、それが可愛くてそこに口を寄せた。
「ああぁ··もう!!」
「ッ、」
チュッと音を鳴り響かせ離れると、強く身体を抱き締められ息が詰まる。
そうして、ガバリ!と音がしそうな勢いで立ち上がった蒼牙は、俺を抱き上げるとすたすたと歩き始めた。
蒼牙が何をするつもりなのか、どこに向かっているのかなんか明確で、心臓がドクドクと早鐘を打つ。
「蒼牙···」
「何ですか?」
ガチャリと寝室の扉を開きながら蒼牙が優しく聞き返してくる。
「『今度は邪魔もなし』··だな。」
ベッドに降ろされながらそう呟けば、蒼牙の瞳の色が変わった。
「···もう、どうしてそういうこと言うかな···こっちは必死で抑えてるのに。」
そうして俺を座らせた蒼牙は、寝室の棚の上に置いてあった自分のキーケースから1つの鍵を抜き取ると、俺の隣に座ってきた。
「俺の鍵です。」
手のひらに鍵を乗せると蒼牙は俺の手ごと握りしめ、誓うように続けた。
「俺は悠さんの元にしか帰りません。貴方の側が俺の居場所だから···」
そう言って蒼牙は俺を抱き寄せると、耳元で囁いた。
「愛してます····だから、これからもずっと側にいて···貴方も俺の元に帰ってきて。」
「蒼牙····」
願うような蒼牙の声に胸が締め付けられる。
返事をしたくても言葉が見つからなくて、俺は蒼牙の背中に腕を回し強く抱き締めた。
泣きたくなるほどの幸福感に包まれながら、ゆっくりと蒼牙の唇に口付けていく。
愛してる····と想いをのせた口付けは、それ以上の想いをのせて返ってきたー。
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