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僕の心をかき乱したのは、一人の男性の存在だ。
彼の名前は、この国の人なら知らない人はいないくらいの有名な人だ。美しく、華やかな人。
あの人と肩を並べるほど高貴な人。
そして………
あの人の恋人である彼。
彼に出会ったのは必然だ。
あの人は心から彼を愛していて、秘密の関係だった二人は隠れるようにどちらかの屋敷で何度も逢瀬を重ねていたから。
だから、彼があの人の僕とそっくりな顔を愛しそうに眺めて、そしてその形のよい唇を、そっとあの人のものへと重ねたのを、隠し部屋の扉の隙間から覗いてしまった僕は、その瞬間に、彼に心を奪われてしまったのだ。
この想いが、決して叶うはずのないものであることは、わかっていた。
僕は、あの人の影で、そして彼はあの人の恋人で。
それでも、一人きりで隠し部屋で過ごしていると、妄想をしてしまうのだ。
僕を愛しげに見つめる彼の顔を。
そして、いつしか、あの人への嫉妬と羨望の感情が心に澱のように溜まっていってしまったのだ。
幸せか、と尋ねられてもうまく答えている自信はなかった。
「最近は、体の調子はどうなんだ?」
優しくあの人に尋ねる彼の声。
目を閉じて聞いていると、自分に言われているかのように感じる。
「最近は発作も起きていないし、大丈夫だ」
…答えるあの人の声さえなければ。
僕が影として雇われたのは、あの人がとても体が弱いから。
そんなあの人が発作を起こして動けないときに、公務を代わりに取り仕切るため、僕は存在している。
それでも、彼と恋人になってからのあの人は、驚くほどに健康で。
すっかり僕の役目はなくなっていた。
このまま、役に立たなければ、ここを追い出されるかもしれない。そんな不安がよぎる。
ここを離れてしまえば、もう二度と彼の顔を間近で見ることなどできないだろう。それだけが、嫌だった。
明るい赤毛を靡かせて、彼が部屋に入ってくるのを見るのがとても好きだ。澄んだ茶色の瞳も、甘く優しい声も、全てここにいるから近くに感じられるのだから。
それが全て、あの人のものだとわかってはいたのに。
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