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それでも、彼と僕は、恋人として上手くやっていた。
彼はとても大切に僕を愛してくれたし、僕も次第に彼に甘えられるようになった。
だけど、時々、叫びだしそうなくらい苦しくなった。
彼が、あの人の名前を呼ぶ度に。
彼に愛されている最中も、この逞しく優しい腕も、胸も、甘く愛を囁く声も全て、…僕のものではないことを、思い知らされるのだ。
あの人がもう、この世にいないことを暴露してしまおうか、と考えたこともあった。
彼に、僕はあの人じゃない、僕を愛して、と。
でも、深く深くあの人を愛している彼を目の当たりにすると、言えなかった。
今日も彼は、僕を愛してくれる。僕をあの人だと信じて。
本物のあの人の体は、男がどこかに隠してしまった。
僕があの人を見たのは、事切れた体を男に清められた後、男に愛しげに撫でられているのが最後だった。
きっと、男はひそかにあの人を愛していたのだろう。
そして、男は自分だけの知る場所で、あの人の骸を、自分だけのものにしたのだろう。
でも、男はあの人に仕えていたときのように、僕に仕えていて、僕もあの人のように男に接した。
前々から何度もあの人の代わりを務めたことはあったし、あの人の代わりに人前に出ることもそう難しいことじゃない。
僕はあの人だから、体も弱いことになっていたし、それほど外出の機会が多いわけでも、来客の対応に困るわけでもなかった。
だから、外の噂なんか知らなくて。
ある日、彼から、絶望的な言葉を言われることになるなんて、思ってもいなかった。
「…今日でお別れだよ」
あまりの衝撃に声も出ない。
彼は、優しく優しく僕に語りかける。
「わかっていた、…ことだろう?…私も君も、子孫を残さなくてはならない。このまま二人で逃げてしまうことは、許されないことだって」
愛しそうに、彼は、僕の髪を撫でる。…あの人の髪を。
「君を愛しているよ、その気持ちは変わらない。君が生きていてくれる、それだけで私は毎日幸せになれる」
最後だというのに、僕は何も言えず、ただ瞳に涙を浮かべて、彼が去っていくのを見送ることしかできなかった。
死んでしまおう、何度も考えた。
彼に会えないのなら、あの人になっていたって仕方がない。
それでも、彼の言葉を思い出せば、死ぬことはできなかった。
『君が生きていてくれるだけで幸せだ』その言葉は呪いのように僕を蝕む。
あの人を、羨ましいと思ってしまった罰だろうか。あの人に成り代わって彼に愛されたいと願ったことの、罰なのか。
それでも、僕はあの人が妬ましい。
彼との甘い思い出を全て持っていってしまったあの人が。
僕には、身代わりに愛された記憶と、捨てられた記憶しか貰えなかったのに。
それでも、僕はあの人の影として生き続けていくしかできないんだ。
『おまえは、僕になれ』
全てはあの時、僕が頷いたからなのだから。
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