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僕は、強欲だ。…普段はそうは見せていないから、誰も知らないだろうが。
小さな頃から、甘やかされていたからそうなったのかもしれない。
高い身分は、僕に裕福と権力を与えてくれたけど、その身分のせいで自由はなく制約は多かった。手放したものも数知れず、その度に腸が煮えくり返るほどの腹立たしさを覚えていた。
欲しいものが手に入らないくらい、嫌なものはない。それくらいなら………
“アレ”が、僕の影になった時、本当は吐き気がした。
自分と同じ顔が、みすぼらしい格好をしていたのだから、当然だ。
それでも、あまりにそっくりで、見つけてきた側近を誉めたことは、覚えている。
アレが、僕の代わりに公務に出るのは正直ありがたかったが、生まれも育ちも悪いアレが僕のフリをしているのに、誰も気づかないことに心から失望していた。
この頃から、なんとなく考えていたことがあった。
それは、恋人に、二人で逃げることを提案した後。
恋人が、『少し考えさせて』と言った時に実行を決意した。
前々から、アレが僕たちのことを覗いているのは知っていた。
僕の恋人に横恋慕していることも。
まあ、そうなるように、わざと見せつけていたのだから、当然だろう。
そして、僕は、薬を飲まなくなった。
小さな発作が何度も起きたけれど、必死に何でもないフリを続けた。全ては計画の為に。
やがて、取り返しのつかない大きな発作が僕を襲ったとき、僕の計画は大詰めを迎えた。
まるで犬か何かのように、横たわる僕のもとに走り寄るアレの顔を、笑い出しそうになるのをこらえて見つめた。
「お前は僕になれ」
その一言を言うのにも、かなりの体力を奪われた。
もう、死神は目の前まで来ているのだろう。
アレが当然のように、僕の命令を受け入れ、ひそかな喜びに顔を輝かせているのを見て、僕は、計画が全て上手くいったことを悟った。
もう、思い残すことはない。
目を閉じると、恋人と過ごした日々が頭に浮かんだ。
優しい優しい僕の恋人が、ずっと僕への想いと家の跡継ぎとしての重責に板挟みになっているのは知っていた。
だから、提案したのだ。逃げることを。
でも、あの時、即答しなかった恋人が、次に答えを出すことは目に見えてわかっていた。心から愛する人の考えていることなんて、簡単にわかってしまう。
僕を選ばない、つもりだろう。
そんなの、許せるはずがなかった。
僕が何を捨ててもいいと選んだ恋人が、僕を選ばないなんて。
だから、死ぬことにしたのだ。
別れを告げられる前に。
恋人との幸せな思い出だけを、連れて逝けるように。
アレを僕の影として生かしておいたのも、このためだ。
恋人が僕の死を悲しむところは僕だって見たくない。想像するだけで嫌だ。
だから、僕の代わりに恋人と別れて、そのあとも生き続ける影が必要だったんだ。
さようなら、名前もない憐れな生き物よ。僕の代わりに、恋人のために生きておくれ。
僕の声は、もう届かない。
憐れなアレは、何も知らず、僕の死にゆく姿を見つめていた────
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