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4.✧証拠
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✧✧✧✧
ダイニングを出て廊下を進み、ある部屋の前で立ち止まる。隣の旭が開けないのか、と俺をちらりと見た。
この部屋は旭の部屋だ。旭が入院してからは病院に持って行く荷物をまとめる時ぐらいしか入っていなくて、旭が記憶を無くす前のままの状態で残っている。
ちなみにいつも寝室の方で二人で寝ていたからこの部屋にベッドはない。
「お前の部屋だよ。入れば?」
旭は不安そうな顔をしていたけど、一呼吸して心を決めたのかドアノブに手をかけた。恐る恐る部屋に踏み入れた旭に続いて俺も中に入った。
「俺の、部屋………」
旭はきょろきょろと中を観察している。
証拠を見せてあげると言ったはいいけど、当の旭は記憶がないわけだし、この部屋にあるものが証拠となるかどうか……。
「あ……」
「ん?どうした?」
入り口付近で部屋を見渡していた旭は、何かを発見したらしく整頓された本棚に駆け寄った。本棚から取り出した物を真剣な眼差しで見ている。
ちょっと気になって後ろから覗き込んでみると、それは高校の卒業アルバムだった。懐かしいななんて思いながら一緒に旭を探していく。
ペラペラとめくっていくと最後のページに一枚の写真が挟まっていた。学ラン姿の旭と私服姿の俺が仲良く写っている。
「これ……」
「お前の卒業式の時のだな」
「じゃあ、俺と楓さんが幼馴染っていうのも、ここに住んでたっていうのも本当?」
「信じてくれた?」
真剣な顔で卒アルを見ている旭を後ろから抱き込むようにして耳元で囁くと、旭はビクッと大きく肩を揺らした。卒アルが床に落ちた音ではっとして旭から離れる。
……そうだ、こいつは今までの旭とは違うんだった。
「えっ……あの、か、楓さん……?」
「……お前が信じてくれなかったの、ちょっとショックだったから仕返し」
「仕返しって……」
むすっとした旭の頬が心なしか赤いのには気づかないふりをして、俺は卒アルを拾って本棚に戻す。
挟まっていた写真の中の二人が思いっきり手を繋いでいたことに、どうやら旭は気づかなかったらしい。まあ、今はそっちの方が旭にとっても好都合かもしれない。
この部屋にある物が記憶を取り戻すきっかけになればいいと思ったけど、今回はそれは無さそうだった。残念なような、ほっとしたような。
全部思い出してほしくもあるけど、この際全部忘れたままでもいい。何も知らない旭にとって俺がすべてになればいい、となんとも言えない気持ちがあった。
「これからもここで暮らすわけだし、お前の部屋なわけだし、自由にしていいんだよ?いっそのこと全部捨てて買い替える?」
「ううん、このままでいい。前の俺のこと知りたいから。……ん?俺、ここで暮らすの?」
「だって旭の親、海外だよ?お前が入院する時に一度帰ってきたけど、またすぐに戻ったし。記憶喪失なのに一人で向こう行くつもりなの?
それに俺、お前と二人暮らしする時に、おじさんたちに旭のことをよろしく、って頼まれてるんだよね」
「え、そ、そうなんだ……。あ、えっと……俺、記憶もないしいっぱい迷惑かけちゃうと思うけど……」
旭は頭を下げて「よろしくお願いします」と言う。旭に頭を下げられたのはこれで二回目だ。前の旭はツンツンしてばっかりだったからな。
そんなの昔からだよと言って頭をぽんぽんと叩くと、旭は安心したように笑った。
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