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7.✩彼の部屋
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✩✩✩✩
夕飯を食べ終わると、約束通り楓さんは家の案内をしてくれた。俺がリビングだと思っていた所は実はダイニングで、それ以上に広いリビングが隣にあった。
部屋の広さにも驚いたけど、リビングから見える景色にも驚いた。ここの階は街が一望できるほどの高さにあって、大きい窓一面に夜景が広がっている。昼間は雨が降っていて視界が悪かったけど、晴れるとこんなに綺麗なんだ……。高層ビルの明かりや遠くに見える電波塔のライトアップ、はるか下の濡れたアスファルトに光が反射してとても幻想的で、ずっと見ていたいくらい本当に綺麗だった。
窓に張り付いて夜景に食いついていると、それに見かねた楓さんが次行こうか、と手を引いてきた。
軽く繋がれた指に少しドキドキする。いやいや、男相手にドキドキするとかおかしい、どうしたんだ……。
手を繋いだまま部屋の案内をしてくれる。いろいろ教えてくれてるのに、変に意識してしまってあまり聞いていなかった。
「ここが風呂で、隣がトイレ。こっちは物置きみたいな感じ。……で、旭くんはさっきからどうかしたのかな?」
「え?あ、ええと、その……手が……」
「手?手がどうし……ああ、握ったままだったね、ごめん」
困ったように笑って楓さんはパッと手を離した。
……やっぱり俺、おかしいのかも。
離れていった手を寂しいと思ってしまった。
「……で、続きだけど、ここが俺の部屋ね」
「楓さんの、部屋……」
「そんな期待するようなものじゃないよ」
ドアノブに手をかけた楓さんがいたずらっぽく「入りたい?」と聞いてきた。その言葉に正直に頷く。どうぞ、とドアが開かれて暗い部屋の中に足を踏み入れると、後ろにいた楓さんが電気を点けてくれた。
俺の部屋と同じくらいの広さで、モノトーンでシックにまとめられている。必要最低限のデスクや椅子と、申し訳程度に棚に小物が飾られている。普段はきっとあの仕事部屋にいるんだろうな。
「あれ?これ……」
ふと目に付いたもの。それはフレームに入れられ壁に飾られた一枚の写真だった。
これと同じような写真をついさっき自分の部屋でも見た。写真の中で笑っているのは高校生だと思われる男子二人。
「ああ、これ?高校の頃の俺と……お前。これは俺の卒業式に撮ったやつかな。一年しか被らなかったけどね。可愛いなぁ。そうそう、お前、高一から高二にかけて急激に身長伸びたんだよね」
楓さんは目を細めてフレームを撫でた。自己紹介をしてくれた時に言っていた通り、俺のことを本当に弟みたいに思ってるんだろう。
確かにこの写真の二人には結構な身長差がある。俺の部屋にあった写真ではこれよりその差が埋まっていた。結構伸びたっぽいけどまだ楓さんに追い付けそうにない。隣に立っている楓さんと視線を合わせようとすると少し見上げる形になる。
「楓さんは身長いくつ?」
「ん、俺?最後に測った時は186センチだったかな。ちなみにお前は179センチ。ついでに体重は64キロ」
「……何でそんな詳しいんですか」
「何でって……俺がお前のストーカーだったから、かな。これくらいは基本中の基本だよね」
つい敬語になった俺に、楓さんはにっこりと笑って顔を近づけてそう言った。
その目が全然笑ってなくて、俺が顔を引きつらせ何も言えずに固まっていると肩を震わせ笑い出した。
「ははっ……お前、その顔!ふっ、ははっ、冗談だって!病院のカルテに書いてあったんだよ」
「なっ!?」
「はぁっ、やば、おもしろ。……どっちかって言うとお前の方がストーカーっぽかったけどね。小さい頃から『かえで、かえで』って俺の後ばっかりついて来て」
楓さんは懐かしむ様に俺を見る。目が合ったその瞬間、射止められたように体が動かなくなった。
いろんな感情が混ざった楓さんの目から、目を離せない。息をするのも忘れて、心臓がバクバクと激しく高鳴っている。
……ああ俺、この感覚を、よく知ってる。
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