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8.✩人違い?
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✩✩✩✩
時が止まったように周りの音が聞こえなくなって、ただただ俺は楓さんの瞳に見入っていた。
既視感、というのだろうか。
記憶なんてないはずなのに、確かにどこかで同じ感覚を味わったことがある。
心のどこか奥深く、体のどこかの細胞が反応しているような、そんな気がする。
どれくらいそうしていたか分からない。ほんの数秒だったかもしれないし、もっと長い時間だったかもしれない。
「旭?」
楓さんの唇が俺の名前を紡ぐと、魔法が解けたみたいに体が自由になった。大きく息をついて強ばっていた肩から力を抜く。暴れている心臓を落ち着かせるようにゆっくりと一度だけ深呼吸をした。
あともう少しで何かが思い出せそうな気がした。
何か大事な事がつかめそうな気がした……。
「……疲れちゃったかな?今日はもう風呂入って、早めに寝ようか」
「……うん」
思い出せない悲しさともどかしさに困惑しているのが伝わったのか、楓さんは心配そうな顔をしてそう言ってくれた。
「楓さん、お風呂上がったよ。……楓さん?」
お風呂から上がってリビングに戻ると、楓さんはクッションを抱いてソファーで眠っていた。
やっぱり楓さんも疲れてたんだ。そりゃあそうだよね、前の俺とは仲が良かったかもしれないけど、記憶をなくした俺は赤の他人も同然だ。受け入れてくれてるように見えても、気を遣っていないわけじゃないだろう。
先にお風呂を済ませた楓さんの髪はまだ少し濡れていて、しかも上裸だから目のやり場に困ってしまう。いくら真夏で暑いからといっても、このままではさすがに体が冷えるだろう。細身なのに腹筋割れてるんだ、とか関係ないところに意識が行ってしまうのを抑えて、楓さんを起こしにかかった。
「楓さん、起きて。風邪ひくよ」
「んー……」
返事はしてくれたけど起きる気配はなく、クッションに顔を埋めてまた寝てしまった。このままじゃ本当に風邪をひきかねない。
クッションを取り上げて今度は体を揺すって起こす。すると楓さんはうっすらと目を開いた。
「ん……あさひ……?」
「楓さん、服着て寝室行こう。風邪ひいちゃ……わっ!?ちょ、楓さん!?」
揺すっていた腕を掴まれてバランスを崩した俺は、楓さんのお腹の上に倒れ込んだ。
寝ぼけているのか楓さんは俺を自分の腕に閉じ込めて、俺の髪に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。
……え!?何これ、どういうこと!?
「か、楓さん!?苦しいって……ひぁっ!?」
楓さんの手が服の中に入ってきて背中から脇腹を撫でてきた。くすぐったいというか、ゾクゾクと変な感じがして、自分のものとは思えない声が出る。
うわ、恥ずかしい……。楓さんが寝ててよかった。
こんな事するなんて、楓さんはきっと俺を誰かと間違えているんだ。うん、絶対そうに決まってる。
そう思わないと変な気を起こしてしまいそうで、必死に楓さんから離れようともがく。けれど、脇腹を這う手がくすぐったくて上手く力が入らなかった。
……どうしよう、さっきから楓さんに触られたところが熱い……。
「ちょ、んっ、楓さん!やめてってば!楓さんっ!!」
「んん……、あ?……っあ、ごめ……」
俺の大声でやっと意識が覚醒した楓さんは硬直した後、俺の肩を掴んでばっと自分から引き剥がした。
「悪い、完っ全に寝ぼけてた……。ほんとごめん」
「あ……いや、全然大丈夫……」
大丈夫じゃないけど……心臓がすごくうるさい。さっきの比じゃないくらいにどきどきしている。
楓さんはしまったと言わんばかりに片手で顔を覆っている。何て声をかけようか迷って様子を窺っているうちに、楓さんはソファーから立ち上がり、ばつが悪そうな顔をして「おやすみ」と言ってリビングから出て行ってしまった。
一人取り残された俺はしばらく楓さんが出て行ったドアを見つめていたけど、深く考えることを止めて、『おやすみ』と言われた手前とりあえず寝室に行くことにした。
楓さんは廊下に繋がる方のドアから出て行った。リビングにはもう一つ、寝室に繋がるドアがある。寝室に行くならそっちから出て行くだろうし、予想通り寝室には楓さんの姿はなかった。どうやら、まだおやすみする気はないらしい。仕事部屋にでも行ったのだろうか。
寝室は場所だけ教えてもらったから初めて中に入る。今入ってきたドアとは別に二つドアがあった。インテリアといえば真っ先に目に入ってきた大きなベッドとサイドチェスト、間接照明くらいだった。そういえば、俺の部屋にも楓さんの部屋にもベッドらしきものは無かった。
……ということは、前の二人はこのベッドで寝ていたってこと?
いくら幼馴染で仲が良かったとしても、一緒のベッドで寝るか?いや、病院の個室という誰もいない空間でしか寝たことがないから分からないけど、世の中ではこれが普通なのかな?でも、少なくともこの家のルールでは一緒に寝ていたみたいだ。
抱きしめてきたりやたらと距離が近いし、本当にただの幼馴染だったのかな……。スキンシップとかコミュニケーションと言われればそれまでなんだけど、幼馴染ってそういうものなんだろうか。だんだん楓さんと記憶を無くす前の俺の関係が怪しくなってきた。
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