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9.✧結局
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✧✧✧✧
一ヶ月ぶりに旭と会って柄にもなく浮かれていたのか、記憶の無い旭との交流で無意識のうちに疲れていたのか。旭が無事に退院して帰ってきたことで気が抜けたのもあるだろう。
風呂に入ってソファーで寛いでいるとだんだん眠くなってきた。旭が戻ってくるまで起きていないと、と思ったのも一瞬で、襲ってきた睡魔に呆気なく負けた。
幸せな夢を見ていた気がする。
いつものように何かを言いながらちょっかいをかけてくる旭を抱き込んで、猫を愛でるように触れる。そのなめらかな肌に指を滑らせて、旭の反応を見るのが好きだった。
「……さん!やめてってば!楓さんっ!!」
叫ぶ声で目が覚めた。
さっきまで見ていた夢と同じ状態。腕の中にいる旭は風呂上がりのせいか頬が上気していて、どこかぽわぽわしているようだった。ぽつりと「楓さん……」と力のない声で呼ばれて、現実を思い出して慌てて引き離す。
やってしまった……。
距離感には気をつけなければ、と何度も自分に言い聞かせていたのに。寝ぼけていたとはいえ、まさか初日からやらかすなんて、本当に悪いことをしてしまった。いきなりこんなことをされて誰かと触れ合うことがトラウマになってしまったら……。
これから先、上手くやっていけるだろうか、と不安に駆られて顔色を窺うと、頬を赤く染めて気まずそうな表情の旭と目が合った。
いたたまれなくなってソファーから立ち上がる。ビクッとして見上げてくる旭に「おやすみ」としか言えなくて、逃げるようにリビングを出た。
仕事部屋に逃げてきてかれこれ数十分。特に何をするわけでもなく、椅子に凭れてアプリケーションが表示されたデスクトップの画面を眺めていた。ここに来れば旭のことを考えなくて済むと思っていたけど、考えないようにすればするほど逆効果で、旭のことで頭が一杯になってまったく仕事が捗らない。
……旭はもう寝ただろうか。
ここ一ヶ月間、旭が居なくても上手くやって来れた。一人でも大丈夫になったはずだった。だけど、どうやら自分が思っている以上に旭を求めているらしい。旭不足が相当ひどい。
旭が居なくなってからは、もう一度旭のそばにいられるならそれでいいと思っていたのに、いざ戻ってくるとどうしても欲が出てしまいそうになる。
「……これからどうすれば……」
どうもこうも自分が我慢していればいいだけの話だ。今の旭には記憶がないのだから、俺の方から何かアクションを起こさなければどうなることもないだろう。
なのに、旭を前にして我慢できる自信がなかった。旭の髪に、肌に、触れたいと何度も思ってしまう。今日一日過ごしてみて、隣にいるのに以前と同じ様に触れ合うことができないのはかなりのストレスだった。こんな日々が続くとなれば、理性なんてものがこれから先も役に立つかどうか危うい。
俺と前の旭がどういった関係だったか、今の旭に知られるわけにはいかない。
いたる所に飾ってある写真や思い出の品で旭がもしかして、と推測する分にはまだいい。幼馴染という盾を使っていくらでも言い逃れができるはずだから。
でも、絶対にそうだ、と勘づかれるのはまずい。だったら証拠となるようなそれらを旭の見えない所へ隠してしまえばいい話だけど、それは嫌だと心の中の自分が訴えている。気づいて欲しいけど気づいて欲しくない。そんなジレンマを抱えている。
何より、前の旭の痕跡を消したくない。旭の記憶が戻る基準がわからない以上、以前と同じ環境を保つべきだろう。
記憶が戻ってほしいと願う一方で、旭が記憶を無くしたのはある意味チャンスだとも思う。世の中の大勢と同じような幸せを手に入れるチャンス。前の旭が選ばなかった人生の選択肢を、『旭と一緒にいたい』という俺の身勝手な感情で潰したくない。
「それにしても、旭と同じベッドとか……絶対無理だ……。なんの拷問だよ……」
旭と寝たい気持ちは山々だけど、またさっきみたいな事になったら嫌だし旭を困らせるだけだ。
ゲストルームで寝ればいいかと思ったけど、あの部屋は滅多に使わないから物置と化していて、今は結構悲惨なことになってる。かと言ってこの部屋で寝られそうな所と言えば……床ぐらいしかない。ラグが敷いてある分、自分の部屋よりは多少マシだろうけど、こんなところで寝たら普段の長時間のデスクワークに支障が出るのが目に見えている。年齢的には若いうちに入るけど確実にキツい。
「……リビングしかないか」
ソファもエアコンもあるし仕舞ってあるタオルケットでも引っ張り出してくれば、この時期だし風邪を引く心配はないだろう。こんな広い家でもそこ以外に適した場所が思い付かなかった。起きてきた旭を困らせるかもしれないけど、何か聞かれたら適当な事を言って躱せばいい。
さんざん悩んで、結局リビングに戻ることにした。
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