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10.✩お返し
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✩✩✩✩
窓から差し込む日の光で目が覚めた。見慣れない天井に一瞬思考が止まったものの、ここが寝室だということを思い出して起き上がる。消毒液の代わりに、ルームフレグランスか何かのいい匂いがした。サイドチェストに置いてある時計を見ると、まだ太陽が昇り始めてそんなに経っていなかった。
ベッドには俺一人だけ。
楓さんが来るかもしれないから、とスペースを空けて寝たのに、ベッドを使った形跡は無い。どこで寝ているんだろう。案内してもらった部屋を思い返してみたけど、この寝室以外にちゃんと眠れる場所なんて無かったはず。もしかしたら、『一晩くらい寝なくても大丈夫だ』とか言ってずっと起きているかもしれない。少なくとも、たった一日で形成された俺の中の楓さん像はそう言っていた。
どうしたのか無性に気になって、楓さんを探しに行くためにベッドから出た。
「あ……」
寝室から出てみると、探すまでもなくリビングのソファーで楓さんが眠っていた。足を伸ばして横になれるくらい大きいソファーなのに、タオルケットを一枚だけかけて猫の様に丸まって寝ている。
何でこんなところで寝てるんだか……。決して寝心地がいいようには見えない。まだ眠るつもりならベッドに行ってもらった方がいいだろう。
そんなことを考えながら、すやすやと眠る楓さんに目を向ける。その寝顔が綺麗で少しドキドキしてしまった。また男相手にこんなこと……。
「楓さんちょっと起きて。ベッド行こう」
「んー……」
昨日の夜、寝ぼけた楓さんにされたことを忘れたわけじゃない。だから多少の警戒をしつつ、脇を抱えて立ち上がらせて寝室に運ぶ。楓さんはうつらうつらしながらベッドへ辿り着くと、頭からタオルケットを被ってまた眠ってしまった。
今回は何もしてこなかったな……なんて残念に思ったのは絶対に気のせいだ。
楓さんが寝ていたソファーにあったスマホもサイドチェストの上に移しておいた。
普段は何時に起きているのか知らないけど、気持ち良さそうに寝ているし、きっと起きなくてはいけない時間には自分で目覚ましをセットしてるだろうからこのまま寝かせておこう。
起きてすぐに体を動かしたおかげで、すっかり目が冴えて二度寝も出来そうになかったから、楓さんが起きるまで入院してた時の荷物を片付けようと自分の部屋に来た。
と言っても片付ける物はそんなに多くない。部屋にある物の配置を覚えながら、着替えを仕舞って貰った小説を本棚に収納したらすぐに終わってしまった。棚の上にうっすらと積もった埃を見つけたから、物置からハンディクリーナーを持ってきて軽く掃除を始める。
俺の場合、気付いた時には病院にいたから、荷物は全部楓さんが用意してくれたに違いない。そうだとしたら、看護師さんたちが言っていた『知り合いの人』って楓さんのことだったのか。俺の面倒を見てくれている人だと聞いていたから、ずっと誰なのか気になっていた。
でも一緒に住んでいるくらい親しかったなら、どうして一度も会いに来てくれなかったんだろう。着替えとか俺に渡さなくてはならない物は全部、看護師さん経由か俺が病室にいない時に持って来てたみたいだし。
そういえば昨日だって、看護師さんたちとは仲が良さそうだった。初対面であんな感じにはならないだろうし――実際、初対面の俺とはあんな風に話さなかったし――看護師さんとは何度も会っていたような感じだった。何か俺に会えない理由でもあったんだろうか。……会えないはちょっと違うか。会えたけど、会わなかった……のかも。……俺が記憶喪失だから……?
入院してた時はあまり気にしていなかったけど、今思い返してみれば疑問に思うことだらけだ。
あの謎だらけの入院期間は、何から何まで楓さんが裏で支えてくれていたのだろう。そう思うと何かお返し……にしては俺ができることなんて些細なことだけど、楓さんのために何かしたいと思った。
今の俺が楓さんにできることを考えてみる。情報の少ない頭でしばらく考えてやっと、一つだけ俺でもできることを見つけた。
「楓さん、朝ごはん食べるかな……?」
朝ごはんは食べない派かもしれない。勝手に作ったら迷惑かなと思ったけど、どっちにしろ俺が食べないと活動を開始できそうにないから作る事にした。病院では一日三食きっちり食べていたから、その習慣が身に付いてしまっている。冷蔵庫の中にたくさん食材はあったし、自由に使っていいと言ってくれたから軽く何か作ろう。
掃除を終えて時計を見るともう部屋に来てから一時間ほど経っていて、さっそく朝食を作りにキッチンへ向かった。
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