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11.✧朝ごはん
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✧✧✧✧
「暑……、ん……?」
蒸し暑さで目が覚めて、真っ先に違和感を覚えた。おかしい。眠ったときと背中に当たる感触、そして景色が違う。
起き上がって周りをよく見てみると、なぜか寝室にいた。確か昨日の夜はリビングのソファーで眠りについたはず。なのにどうして今は寝室のベッドにいるんだろう。
意味が分からないこの状況の原因を必死に考えても、起きて間もない頭では何も思い付かなかった。しばらく一人で悶々としていると、突然、寝室のドアが開いた。
「あ、楓さん起きた?おはよう」
「……おはよ」
一瞬、何で旭がいるんだと驚いたけど、すぐに昨日のことを思い出す。退院する、と病院から電話がかかってきて自分で旭を迎えに行ったんだった。
旭がいないことに慣れたつもりでいたけど、すぐ目の前にいれば飢えが顔を出してしまうんだな、とありありと覚えている昨日の失態を思い出して顔を覆った。
……ということは、旭が俺をベッドまで運んだのか。運ぶまではいかないとしても、一度起きて自分で来た記憶なんて無いから、おおよそ気を利かせた旭に連れて来られたんだろう。昨日の今日で警戒しなかったんだろうか……。抱き締めた時の反応からして、記憶をなくしたことで人と触れ合うことへの耐性も無くなったみたいだし、俺以外の人間にもあんな初な反応をしたら勘違いをさせてしまうだろう。これから先、家の外に出れば他の人と交流する機会もあるから、変な輩に目を付けられたり悪い人間に騙されたりしないか、純粋すぎる旭が少し心配になった。かといってどうやって耐性をつけさせれば……いや、さすがにお節介が過ぎるか。旭への距離感の取り方と親心からくる心配の板挟みになって項垂れると、ドアの所にいた旭が近くに寄って来た。
「楓さん?……大丈夫?」
「ん、ああ、大丈夫だよ。……そうだ、ベッドまで運んでくれたんだね、ありがとう」
「うん、だってソファーで寝ると体が痛くなりそうだったから、ベッドの方がいいかなって……」
旭は一瞬迷いを見せた後、俺がいるベッドの端にちょこんと腰かけた。手を伸ばせば簡単に届く距離に嬉しくなる。
「でね、楓さん。あの……朝ごはん作ったんだけど……」
「なに、わざわざ作ってくれたの?」
「あ、えと、食べるかなって……」
「もちろん食べるよ。ありがとう旭」
つい嬉しくなって旭の柔らかい髪に指を通すと、旭は一瞬ビクッと体を揺らしたものの怖々と俺の手にすり寄ってきた。それを見て、触れられるのは嫌じゃないんだと分かってほっとする。
前の旭も毎日朝ご飯を作ってくれてたんだよな……。作り終えると目覚まし時計なんか無視してすぐに俺を叩き起こしに来たけど。
俺の顔色を窺うようにそわそわしていた旭をそっと抱き寄せる。さすがに拒否されるだろうと思っていたけど、何の抵抗もなく大人しく腕の中に収まった。腕の中でもぞもぞ動いて体勢を直すと俺を見上げてふわっと笑った。あ、可愛い。
「良かった、断られなくて……。楓さん、朝ご飯いらないかなと思って迷ったんだけどね、俺が絶対お腹空いちゃうから作っちゃった」
「断るわけないよ。ほんと、すごく嬉しい」
抱く腕に少し力を込めると旭は困ったように微笑んだ。そのまま肩に顔を埋めて旭を堪能する。本当に帰ってきたんだ、夢じゃない。
旭がいる安心感で久しぶりに心が満たされた。
「ねぇ楓さん、ご飯冷めちゃう」
「はは、そうだった。旭くんのご機嫌が悪くなる前にいただきますか」
しばらく黙って抱かれていたけど、さすがに耐えられなくなったらしく旭は俺の胸を弱く押し返してきた。渋々抱きしめる力を緩めるとするりと腕から抜け出した。ベッドに座り直して俯いて、どうやら俺の行動を待っているようだった。腕から解放されてさっさと寝室から出て行くかと思っていたから、その様子を不思議に思って見ていると、ある事に気がついた。
「旭、耳赤くなってるけど?」
「なっ、み、見ないで……!ほら早く行こう!」
俺に言われて思い当たる節があったのか。旭の耳がさらに赤くなったのは言わないでおこう。
ついさっきまで大人しく待っていたのに、打って変わってグイグイと俺の腕を引っ張ってくる。
ああ、また、こんな何気ないあたたかい日々が戻ってくるんだと、朝から幸せな気分だった。
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