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13.✧新しいの
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✧✧✧✧
旭が家に帰って来てから、丁度いい距離を保っていたはずだった。保つと言っても磁石の同極のように、旭が近づいて来ても俺が一歩下がっていたから、俺にとっての丁度いい距離を、だけど。
初日にやらかしたことを反省して必要以上に触れ合うことはせず、最低限の触れ合いでも甘くならないように細心の注意を払って、“一緒に住んでいる幼馴染のお兄さん”としての距離を考えて行動していた。
普段の生活は問題なく過ごせていた。だけど唯一、寝る時が問題だった。そもそも二人で眠る用に買ったベッドだから広いとはいえ、密着まではいかなくても必然的に日常生活よりも距離が近くなる。起きている時は気を付けようと思っていても、無防備な状態の旭がすぐ隣にいるなんて状況では、無意識のうちに何かをしてしまう可能性は大いにあるわけで……。
何か起きてからでは遅い。『一緒のベッドで寝ていて、体を触れ合う関係』なんて、もう一つしかない。前の旭との関係がバレてしまう。
だから、一線を越えないようにするためにもリビングのソファーで寝ることにしていた。
さすがにずっとこのままではいけないと思ってはいたけど、何とかなっていたから解決を後回しにしてしまっていた。
旭はそのことに対して何かしら思うところがあったのだろう。帰ってきてしばらくの間、何度か俺がソファーで寝ている理由を聞かれそうになった。そのまま伝えても旭が困るだけだし答えにくい問題だったから、その度に何かと言葉を濁したり理由をつけて躱してきた。
そうやって毎回逃げていたら、旭も分かってくれたらしく最近は聞かれなくなった。
だから、もう諦めてくれたと思っていたのに。
「楓さん」
本を読んで寛いでいたところへの不意打ちだった。
目を見据えられて、「ソファーで寝てるよね」と言われ、しまったと思った時にはもう遅かった。矢継ぎ早に質問されて、どうにかこうにか言葉を探して答える。以前の関係性を詮索される前に、さっさとここから立ち去ってしまおう、と物理的な逃げ道を考えていたら阻むように腕を掴まれて、旭は思いがけない事を口にした。
「そんなに俺と寝るのが嫌なの?」
旭が言った言葉を理解するのに、結構な時間を要した。
まさか『旭と一緒に寝るのが嫌だから』と思われていたなんて全然予想していなくて、つい間抜けな返事をしてしまった。ソファーで寝ているのは、旭を困らせないようにするためであって、そんな、嫌だなんて……。
旭は一つしかない広いベッドを見ていろいろ考えただろう。俺の予想通り『前の旭と一緒に寝ていた』ところまで考え付いた。前の旭とは寝ていたのに今の旭とは寝ないことについても考えて、でもその理由を俺は頑なに言おうとしない。
俺は、それが指し示すもの、つまり『一つのベッドで眠るような関係性で、他人には隠したいもの』を聞かれるのかと思っていた。
だけど旭の顔を見るに、ただ俺が深読みしていただけらしい。楓さんは今の俺と一緒に寝たくないんだ、なんてそんなことを思わせるなら、逃げていないでもっと前に話を聞いておけばよかった。
いくら家中に前の俺たちの関係を示唆するような物があっても、こいつは何一つとして気付かないのか。もしかして、想像すらしないのか。記憶を失って、俺たちの当たり前が通用しなくなったってわけだ。
言いたいことが次々と湧いて出てくる。とりあえずそれらは一旦飲み込んで、今は旭の質問に答えることにした。
単純に、旭と寝るのが嫌なのかと聞かれれば別にそうではない。むしろ許されるなら前と同じ様に一緒に寝たい。だけど、何も知らない旭と同じベッドで寝て何もしない自信がないのだから、気軽に寝たいとも言えないんだよな……。
「……ねえ、どうなの?」
すれ違いがあった事を察したのか、旭はむすっとして俺の答えを待っている。
そんなに知りたいのか。でもその前に、こいつは俺の睡眠より自分の身体を心配した方がいい。俺が寝ぼけて旭にいやらしいことをしそうになった前科を、まさか忘れたとは言わせない。
「逆に聞くけど、旭は俺と寝たいの?この前みたいに寝ぼけて変な事しちゃうかもよ?」
「えっ、そういうわけじゃ……!変な事されるのも困るけど……」
あの事を思い出したらしく、旭は合わせていた目線を逸らして宙を彷徨わせた。いや、その、と分かりやすく動揺する旭に、笑いそうになるのを堪える。
「じゃあ、やっぱり俺がベッド買ってきてそれで寝ればいいよね?ベッドは明日買いに行くとして……寝室には置けないから、スペース的に俺の部屋だな。そうなると部屋の片付けしないとか……」
さっそく部屋に行こうと立ち上がると、旭は慌てて俺の腕を半ばしがみつくようにして掴み直した。俯いていて表情は分からないけど、どうやらまだ何かあるらしい。
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