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14.✩とにかく
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✩✩✩✩
俺たちがそれぞれ考えていた事がすれ違っているらしいのは分かった。楓さんが俺に何を言われると思っていたのかは想像できなかったけど、少なくとも楓さんにとってマイナスなことだったからこの話題から逃げていたんだろう。でも、ずっとこのままでいいわけない。
改めて俺と寝るのが嫌なのか聞いたら、逆に一緒に寝たいのかと、また何かするかもしれないと言われてしまった。
一緒に寝たいとか、そういうわけじゃない。俺はただ、普通に楓さんの体が心配なだけで……。一緒に住んでいる人の体調を心配するのは別におかしいことじゃないはずだ。
確かに楓さんの言う通り、この前みたいに変な事されるのは困る。困るしびっくりするし何かよくわからない気持ちになる。
だけど嫌ではなかったような気もする。頭を撫でられたりこの間の触れ方だったり、楓さんに触られるのは心地がよかった。元々そういう事をされるのが平気なのか、はたまた相手が楓さんだから平気なのかは分からない。他の人に同じようにされたらと想像してみたけど、あまりいい気分ではないと思った。きっと、楓さんだから大丈夫な気がする。
……なんて、本当にどうしちゃったんだ。こんな風に思ってるなんて知られたら、さすがに気持ち悪いって引かれちゃうよね……。
言葉に詰まっていると、楓さんは自分の部屋に新しくベッドを買うと言い出した。違う、俺が求めてる解決策はそういうことじゃない。でも誤解の無いように上手く伝えられる自信がない。
別々で寝ていると楓さんが遠い存在みたいに思えてくる。近づいちゃいけないのかなって、それが何故だかすごく悲しい。
「どうして、そうなるの……。どうせ寝室があるんだからそこで寝ればいいじゃん……」
「旭がそう言うなら……。じゃあ、二つ置けるようにスペース作らな――」
そんなに俺と寝るのが嫌なのか。
何がなんでも別々に寝ようとする楓さんに対してだんだんと怒りが湧いてくる。悲しさと怒りがごちゃ混ぜになって、感情を抑えていた理性の糸がプツンと切れた。
「ああ、もう!ベッドなんか新しく買わないで、一緒に寝ればいいでしょっ!別にどうしても一緒がいいとか、そういうわけじゃないけど、あんな大きいベッドに一人って……すごく寂しいよ……。楓さんがいるのに、こんなの病院にいた時と変わんないじゃん……」
楓さんの言葉に被せて瞳を真っ直ぐ見つめて捲し立てる。楓さんは本当に俺と寝たくないのかもしれないのに、こんなわがままを言ったら余計困らせるだけだって途中で気づいたけど、言葉は止まらなかった。
どうしてこんなに一緒のベッドで寝ることに拘っているのか自分でも分からない。俺はただ、前の俺の時から一緒に寝ていたのなら、変わらずにそうしてほしいだけで……。俺が帰ってきたからって、無理をして何かを変えようとしないでほしい。前の俺が楓さんの生活に溶け込んでいたのなら、今の俺を異物として扱わないでほしい。
すごくわがままなお願いなのは分かってる。記憶もないし前の俺がどんな人だったかも知らないのに、同じように扱えだなんて。
俺が言葉をぶつけている間、楓さんは酷く苦しそうな表情をしていた。
そんな顔をされたら……、楓さんに拒否されてるみたいで胸が痛い。
「どうせ前の俺とは一緒に寝てたんでしょ……。ズルい。どうして今の俺は駄目なの……?」
「……『ズルい』って……。違う、今の旭が駄目なんじゃない。ただ俺が……」
震える楓さんの声でハッとした。口を押さえても放たれた言葉は無かったことにはできない。え、俺、なに言ってんの。違う、今のは無意識に零れたやつで……。これじゃあまるで、記憶をなくす前の自分に嫉妬しているみたいじゃないか……。
恥ずかしさでいっぱいいっぱいになって楓さんの顔を見られない。
「あ、えと、今のは忘れて!やっぱ無理してほしくないし一緒に寝てくれなくていいから!変なことされたら俺も困るしね!」
「え」
「明日ベッド買いに行くんでしょ、俺も手伝うよ!」
「……いや、やっぱりやめる。お前と一緒に寝るから必要ない。一人で寝るのは寂しいんだろ?」
落ち着けと言うかのように頭を撫でられて優しく微笑まれた。途端にうるさくなる心臓に俺は恋する女子かよ、とため息が出そうになった。さっきまであんな悲しくなったり怒ったりしていたのに。
……あれ、これでドキドキしてたら、一緒のベッドで寝るとか俺の心臓がもたないんじゃ……。
やっぱり今の俺じゃ、駄目かもしれない。
楓さんがちゃんと寝られる場所は確保できたけど、俺の安眠が犠牲になりそうだ。
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