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19.✩電話
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✩✩✩✩
ソファーに寝転がってテレビを見ていると夕方のニュースが始まって、楓さんが買い物に出かけてからだいぶ時間が経ったことに気が付いた。メッセージにあったように近くのスーパーまで徒歩で行ったのなら、いつも三十分くらいで帰って来るはずなのに。
何かあったんだろうかと心配になってきた頃、テーブルに置いていたスマホが鳴った。楓さんかと思い慌てて手に取ったけど、画面に表示されたのは知らない人の名前だった。
『市倉遼介』って誰だろう。普通の着信で名前が表示されるってことは、元々電話帳に登録されていた番号だ。……前の俺の知り合いかな?
出ようかどうか少しの間迷って、結局、通話ボタンをタップした。
「……はい」
『もしもし和泉~?久しぶりー』
恐る恐る出てみると間延びした声。知らない名前だし初めて聞く声だからどんな人か全く分からないけど、口調からして親しかった人らしい。病院や買い物に行った時くらいしか楓さん以外の人と話す機会なんてないから、どんな話をされるんだろうとドキドキしていると、電話の向こう側から小さな溜め息が聞こえた。
え、何、どうしたんだろう。もしかして俺、この一瞬で何か気に障ることをしてしまったんだろうか?……電話の出方を間違えた、とか?いや、そんな変なことはしてないはず……。それなら一体どうして溜め息なんか……。
そんな不安がぐるぐると渦巻いていく。相手の真意が読めなくて一気に緊張感が高まった。
『あのさぁ……今、和泉ん家の近くにいるんだけど、平坂先輩ってここの近くに住んでんの?』
「え……?」
『あー、もしかして知らない?和泉、平坂先輩と仲良かったから知ってるかと思ったんだけど。うん、そっかぁ……。ま、用はそれだけだから。じゃあ、また』
口を挟む間もなくそう言われ、一方的に通話を切られた。特に会話らしい会話もなかったけど、電話をかけてくるほど大事な用事だったんだろうか。
楓さんのことを知っているってことは、やっぱり俺と親しい間柄の人なんだろう。久しぶりって言っていたし、俺の記憶がないことを知らないのかもしれない。
ホーム画面に戻ったスマホを眺め不思議に思っているとリビングのドアが開いた。「ただいま」と言って両手に買い物袋を提げて帰ってきた楓さんは、どうやら俺がまだリビングにいるか確認したかっただけらしい。俺を一瞥するとリビングを通ってキッチンの方へ向かったから、俺もソファーから起き上がって楓さんの後を追う。
「楓さん、お帰りなさい。遅かったね?」
「あー……、さっきっていうか、行く途中で旭の友達に会って、喋ってたら遅くなった。市倉遼介ってやつなんだけど」
「え、たった今その人から電話きたよ……?」
「へえ、何て?」
楓さんは買ってきた物を冷蔵庫に仕舞いながらちらりとこっちを見てきた。素直に電話で聞かれた事を伝えると、楓さんは怪訝そうな顔をした。
「俺の住んでるところなんか聞いてどうするんだろうね?それも旭に」
「俺の家は知ってるみたいだったけど、俺と楓さんが一緒に住んでるのは知らなかったみたい。すぐに切られちゃった」
「何だったんだろうね?連絡先知ってるんだから俺に聞けばいいのに。まあ、聞かれたとしても住所なんて教えるつもりないけど」
道端で会えば会話するし連絡先も知ってるってことは、楓さんも仲良かった人なんだ。そう思って、市倉さんはどういった感じの人なのか聞いてみると、楓さんは困ったように笑った。
「別に仲良いわけじゃないよ。学生時代の部活とかサークルの後輩でもなかったし、俺と市倉の接点なんて旭だけだったし」
「そうなの?」
「だから、さっき話しかけられた時はびっくりしたよ。顔見ただけじゃ思い出せなくて、名前聞いてやっと分かったんだから。大学もお前と一緒らしいから夏休み明けたら会うかもな」
そっか、楓さんは仲良いわけじゃないのか。俺の友達って言ってたし。でも楓さんも知ってる友達が大学にいるなら少しは安心できる。記憶がない俺とも仲良くしてくれるかな……。
その後二人で作った夕飯を食べて、自分の部屋で卒アルを見てみると確かに『市倉遼介』という人物がいた。俺と一緒に写ってる物が何枚もあったから、かなり仲が良かったみたいだ。それから楓さんに頼んで、高校時代の話とかをいろいろ聞かせてもらった。
……時折見せる懐かしむような表情がとても印象的で、ドキドキして途中から頭に話が入ってこなかったのは楓さんには秘密だ。
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