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20.✧気分転換
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✧✧✧✧
自分の卒アルを持ってきた旭に強請られて高校の時の話をした。
俺と旭は二歳差だから中学、高校の在学期間はそれぞれ一年しか被っていない。親同士の仲が良くて幼い頃から兄弟みたいにずっと一緒に育ってきたけど、高校生にもなればそれなりに自立してお互いを必要としなくなる年頃だし、実際、俺が中学に上がった頃を境に旭と接する時間は急激に減っていって、高校に入ってからは数週間に一度程度になった。当時の俺はあまり気にしていなかったけど、こう振り返ってみると離れていた期間は結構長い。
そういうわけでお互いの学校生活をすべて知っているわけではないし、俺たちが幼馴染以上の関係だったってことは伏せてかいつまんで話すしかなかったから、余計限られた内容になってしまった。幼馴染だとか言っているわりには関係性が薄くないか、と今の旭に思われてしまっても致し方ないくらいの、当たり障りのない薄っぺらいエピソードしかなかった。
うっかり口を滑らせてしまわないかヒヤヒヤしている俺とは対照的に、旭はまるで絵本の読み聞かせを聞くかのように俺の話に耳を傾けていた。何か記憶に関する手がかりみたいなものがあれば、と思っていたけど、残念ながら記憶が戻りそうな気配は無かった。
一緒に過ごしてきた俺からすると、今の旭は前の旭から角を取って柔らかい雰囲気にした感じだ。感情表現の仕方も素直だし、気恥ずかしさから来る刺々しさもない。まっすぐで純真なところが幼い頃の旭を彷彿とさせるから、懐かしさに駆られて今までにも何度か昔の話をしたことがあった。『そんなこともあったね』って言葉を期待をしているわけじゃないけど、他人事のように聞いている旭を見る度に、目の前にいるのが俺の知る旭じゃないという現実を突き付けられて苦しくなる。
かと言って全く違うかと言われればそういうわけでもなくて、仕草や態度を細かく見ていると前の旭との共通点がたくさん見つかる。記憶ではない根本的な部分は同じなのだろう。
違うところ、同じところ、それらを見つけるのが新鮮で楽しくもあるけど……。
旭が眠りについた頃を見計らって、俺はベッドを抜け出した。寝る前に過去の話をしていたからか、いろいろ思い出してしまって寝付けなかった。
持て余したこの熱を昇華させようと思ってとりあえず仕事部屋に来たはいいけど、却って仕事が捗りすぎてしまって気付いたら午前四時を回っていた。睡眠はちゃんと取りたいけど、次から次へとアイデアが溢れて頭が冴えてしまって寝られそうにもないし、一度途切れた集中力はなかなか戻ってこない。
「……海でも行くか」
外はまだ暗いけど、今の気分的にもその方がいいな。
作業が行き詰まった時は必ず気分転換に外に出る。宛もなく散歩をしたりコンビニで買い物をしたりすることもあるけど、近所の海に行くことが一番多い。
今度は旭が起きても心配しないように、一度寝室へ行ってサイドチェストの上に書き置きを残す。気持ち良さそうに眠る旭が可愛くて、つい頬を撫でた。すると、身じろいだ旭が自分の隣――俺が寝ているはずのところに手を伸ばして何かを求めるように動かし始めた。もしかして俺を探しているんだろうか。もちろん俺は起きているからそこにはいない。
「ん……かえでさん……?」
丁度眠りが浅いタイミングだったのか、俺がいないことに気付いたらしく不安げな声で名前を呼んできた。
「まだ寝てていいよ。ちょっとそこの海行ってくる」
旭の頭を撫でて寝かしつけようとしたらうっすらと目が開いた。却って起こしてしまったようだ。
旭は俺の腕を掴んで起き上がると、眠そうなふわふわした声で「うみ?」と聞いてきた。
「そう、海」
「えー……なんで……?俺も行く……」
「散歩してくるだけだから。外涼しいしまだ寝てなよ」
「やだ……」
寝ぼけた旭はいやいやと首を振りベッドから下りてしまった。まだ半分くらい寝ていて支えてあげないと倒れそうになるのに、俺の腕はぎゅっと掴んで離そうとしない。こんな旭、体調悪い時以外で初めて見た。超可愛いな。
「……わかったよ。風邪引かないようにして行きなよ」
「はい……」
俺の言う事を素直に聞く旭が可愛い。前の旭はツンツンしてばかりだったからな。
眠そうに目を擦っている旭の代わりに、寝室に繋がっているウォークインクローゼットから長袖のパーカーを取ってきて着せてやる。旭の手を引きエントランスを出て、夜明け前のひんやりとした空気の中に踏み出した。
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