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27.✩接触禁止
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✩✩✩✩
『まだ授業が始まるには早いし、おしゃべりでもしない?』
そう言われて俺は今、柚里と校内のカフェにいる。柚里も言った通りまだ講義が始まる時間ではないらしく人は少ない。
楓さんはというと、大学にいる時は柚里と一緒に居るように、と言い残し仕事へ行った。
「そうだ、旭。私に何か聞きたいことはある?」
「聞きたいことかぁ……」
楓さんも『気になることは何でもユズに聞きなよ』と言ってくれていた。楓さんにもいろいろ聞いたけど、かなりの確率ではぐらかされたり言葉を濁されたりして終わるから、聞きたいことは山ほどある。
楓さんがダメでも、この目の前にいるもう一人の幼馴染なら話してくれるかも。
「話を始める前に一ついいかな?……俺、自分の記憶を取り戻したいと思ってるんだ。だから、分かることは全部教えてほしい。楓さんは教えてくれないし……」
「そうね、あなたが望むなら話すわ。……話せる範囲でね。けれどね、旭。世の中には知らない方が幸せなこともあるのよ。それでもいい?」
柚里は綺麗な微笑みを浮かべて含んだ言い方をした。
知らない方が幸せなことって?
全部知って記憶を思い出すのが、俺にとって幸せなんじゃないの?記憶を取り戻したいって初めて口に出したけど、ずっとそう思ってた。
それにその方が、楓さんにだって迷惑をかけないと思う。
「うん。それでも知りたい。話せる範囲でいいから、全部教えて」
はっきりと言い切ると柚里は納得したようだった。そして柚里は笑みを消して真剣な表情になった。
「じゃあまずは、大事な忠告でもしておくわ。……市倉遼介という男と関わりを持たないで」
「市倉遼介?その人ならたぶんこの前、電話してきたけど……」
そう言った途端、柚里は固まって盛大なため息をついた。なにか知らないところでやらかしてしまったらしい。
「本当にあなた変わったわね。ああ、いや、それが悪いわけじゃないの。ただ、前の旭は市倉遼介という男をかなり嫌っていたから。同じ空間にいるのも嫌なほどにね」
「え?」
「私と旭は何が何でも市倉遼介を楓に近づけたくなかったのよ。接触禁止。あいつは楓に何をするか分からなかったから」
市倉遼介が楓さんに?
あれ、この間楓さんは市倉遼介に会ったって言ってたよね?それで?それでどうしたんだっけ?
「あ……、楓さん、市倉遼介と連絡先交換したって言ってたけど……」
「はあ!?もう、何やってんのよ。……そうよね、楓は楓で何も知らないんだから。まあ、それは仕方無いことにしましょう。後で受信拒否とかできるものね」
前の俺はそんなに嫌っていたのか……。電話してきたときは、俺に嫌われてたなんて全然匂わせてなかったけどな。
「あ、やば、授業始まるわ、急ぎましょ!続きはまた放課後にね」
柚里は腕時計を確認すると俺の手を取り早足でカフェから出た。
そんな二人をつい先ほどまで話題になっていた男が見ているとも知らずに。
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