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36.✧馬鹿じゃないの
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✧✧✧✧
頬がじんじんと熱い。
俺の頬を叩いた柚里は珍しく興奮しているようで、けれど傷ついた顔をしていて目に涙を溜めていた。
「そんなのあなたのエゴでしかないじゃないっ……女と結婚して家庭を持つことが旭の幸せなら、あなたの幸せはどこにあるのよ……」
「………………」
俺の、幸せって……。
だから、旭が家庭を持って幸せになることが、俺にとっての幸せでもあるんだって……。旭が笑って過ごしてくれることが、俺の幸せなんだ。
「……旭が幸せなら…………、俺はそこに自分がいなくても、幸せだって思うよ」
「仮にそうなったところでどうするのよ。旭と過ごした日々を一人で思い出して、旭のいない残りの人生を慰めるつもり?」
ああ、それでもいいかな。どうせ俺は女と結婚なんてできるわけないし。もしも旭に子どもができたら、親の幼馴染であるおじさんとして遊んであげるのも楽しそうだ。
「……本当に馬鹿ね。あなたが旭を見てきたように、私もずっとあなたを見てきたけど、もっと頭がいいと思ってたわ。……ああ、あなたは旭のことになると自分が見えなくなるものね。そんなに旭が大切で幸せを願うなら、もう少し今の旭を見てあげなさいよ!」
「……今の旭を、って……」
「あなたの言っていることは、今までの旭を前提にしてる。前はこうだったから今度はこうしなきゃ、って。お願い、前と今の旭を比べたりしないであげて……。旭から逃げないで」
「………………」
柚里の言う通り俺の考えは全部、前の旭を前提にしていた。身を引こうとしていたんじゃなく、旭から逃げようとしていただけだった。
一度関係がリセットされたからといって、器が同じとか中身が違うとかそんなんじゃなくて、ちゃんと今の旭と向き合わなきゃだよな……。
「前の旭から奪ったと思い込んでるものを、今の旭に与えようとするのは……間違ってる。前の旭は、あなたに可能性を奪われたからあなたと一緒にいたんじゃないわ。あなたが好きだから、自分で選んであなたといたのよ」
「…………そうだな、ちゃんと向き合ってみる」
柚里の目を見てしっかりと言うと柚里は嬉しそうに微笑んだ。本当にこの幼馴染は俺たちをよく見ている。十数年も一緒に過ごしてきたけど、何度も助けられた。柚里がいてくれて、本当に良かった。
「ええ、そうしてあげて。今の旭の望むように、今の旭を見てあげて」
……今の旭の望むように。
その言葉がずっと縛りつけて抑えていた気持ちを解いていった。
それと同時に旭が何に悩んでいるのかもだんだん分かってきて、今すぐ帰って抱きしめたくなった。
会計を済ませて店の外に出る。普段は奢られるのを嫌がるけど、今日は相談に乗ってくれたお礼と言いなだめて奢らせてもらった。そういえば旭は、ちゃんとご飯食べたのかな。
「今日はありがとう。おかげでスッキリしたよ。ほんと昔からユズには迷惑をかけてばっかりだ……」
「私もガツンと言えてスッキリしたわ。昔からなぜか、あなたたちがそういう風に悩んでるのを見るとなんだかこう……イラッとくるのよね。端から見たらとても簡単なことで悩んでるから。………ほっぺ、叩いてごめんなさい。痛かった?」
「まあ、少しはね」
「ふふっ、でも目は覚めたでしょう?」
そう言った柚里は満足そうに笑っていた。
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