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39.✩幸せなこと
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✩✩✩✩
「そんなに見つめて、言いたいことでもあるの?」
俺の視線に気づいたらしく楓さんがうっすらと目を開けた。もう眠いのか俺を映した目はとろんとしている。
「言いたいこと?なんで?」
言いたいことはたくさんある、けど。
今日会ってきたのは誰?とか、さっきのDVDは楓さんの趣味なの?とか、俺、楓さんが好き……とか。……一番最後は今は関係ないか。
「ねえ旭。俺さ、もっと今のお前と向き合ってみようかなって思うんだけど」
「えっ……?」
突然そんなことを言われて戸惑う。今の俺を見てほしいと思ってはいたけど言ったことはない。一体楓さんにどんな心境の変化があったのかは分からないけど、でも俺にとっては嬉しいことだ。
"今の俺を見てほしい"
つい昨日願っていたことが本当に実現しそうでとても嬉しかった。ちゃんと今の俺自身を見てくれるんだ。……こんなに嬉しいなんてやっぱり俺、前の自分にやきもち妬いてたんだろうな。本当に楓さんのことが好きだ。
「楓さん、俺、すごく嬉しい……」
「ん、良かった」
俺の頭を撫でていった楓さんの手を追いかけるように肩に寄りかかった。……今の俺たちは傍から見たら恋人みたいに見えたりするのかな?
楓さんには彼女がいるみたいだから、奪ってまで恋人になりたいとは願わない。今のままで充分幸せだ。
「楓さん……?」
返事はない。寝ちゃったのかな?ちゃんと座り直して楓さんの顔を覗き込む。瞼は閉じられていてどうやら眠っているようだった。薄く開いた赤い唇から規則的に呼吸がされている。
楓さん大人だし、キスとかしたことあるんだろうな。きっとそれ以上のことだって経験あるに違いない。
「楓さん…………す……」
好き、と零れそうになった言葉をぐっと飲み込んで、静かに楓さんに顔を近づける。なんかこの言葉は、今は言わない方がいいんじゃないかと思った。
鼻と鼻がぶつかりそうになったところで楓さんが身じろいだ。慌てて楓さんから体を離す。
……な、なにやってんだよ俺!?
い、今キスしようとしてた?いやいやないでしょ!
今の俺と向き合うと言われて嬉しくて舞い上がった勢いで、そんなのさすがに……やっちゃいけない。好きと伝えてないし、そもそもそういう気持ちを受け入れてもらえるかも分からないのに、何を勝手に先に進もうとしてるんだ……。意識を向けてくれるだけで十分だと思わなきゃ……。
体育座りで膝に額をつけて反省していると、背中にずしっと重みが乗っかった。眠った楓さんがずり落ちて寄りかかってきたんだろう。楓さんは寝心地が悪いのか俺の背後でもぞもぞ動いている。
女みたいに柔らかくない男の体なんだからそりゃあ寝心地は悪いでしょ……。
そう思っていると楓さんが後ろから抱きついてきた。この間みたいに誰かと勘違いしてるのかな。……でもこうやって抱きつかれると初めて会った日を思い出すなぁ……。思えばあのときから楓さんにどきどきしてた。
「キス、してくれないの?」
耳元で囁かれて今度こそ心臓が止まるかと思った。いや、いっそのこと止まってほしかった……。
両手で顔を覆った俺を見て楓さんはくすくす笑っていた。
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