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45.✧これからの
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「楓さんはどっちがいい?俺の……『旭』の記憶があるのと無いの」
「そう聞かれてもね……」
この間柚里にも言ったように、俺は本気でどっちでもいいと思っている。
今の旭とでも新しい思い出を積み重ねていくことはできるし、旭が俺との未来を望んでいてくれるなら変わらず一緒に暮らしていくんだと思う。それは記憶が戻って前のような関係に戻ったとしても同じだ。
……もしも今の旭が俺以外の人との未来を望むなら、潔く身を引く覚悟だってできている。
だけど昨日の夜にソファーで旭が俺にしようとした事を考えれば、もう旭も自分の気持ちに気づいているだろう。そして俺もそれから逃げようとは思わない。
「俺は……どっちでもいいよ」
「……楓さんはいつもそればっかりだよね」
そう言いながらも旭は驚いているようだった。
きっと旭の中で、俺はまだ前の旭を求めていると思われているんだろう。昨日、ちゃんとお前と向き合うって伝えたんだけどな。
「記憶が完全に戻ったお前でも、これ以上記憶が戻らないお前でも、俺は受け入れるよ」
「……それが結果だから?」
「まあ、うん、そうかな。『旭』であることに変わりはないと思うから」
素直に頷くと旭は「そっか」と微笑んだ。戻ってくれるのは嬉しいけど、それを重荷に感じてあまり記憶がどうとか気に病まないでほしい。せっかく俺が今の旭を見るって決めたのに、当の旭が自分の知らない過去の記憶に囚われるというのもおかしいと思うから。
今の旭には、過去に縛られずにこれからを生きてもらいたい。
「さ、この話は終わりにしよう。時間が解決することもあるんだよ。今日はゆっくり過ごそう」
「……楓さんはたまにジジくさいこと言うよね」
「そういう旭はお母さんみたいな時があるよ?」
「う……、俺、男なんだけど!男!」
やたら男にこだわる旭をあしらってコーヒーを淹れようと立ち上がる。目で追ってくる旭の頭を撫でてキッチンに立つと窓の外が見えた。窓枠をフレームにして写真のように遠くに山々が連なっている。
もうそろそろ紅葉が始まって山や街の落葉樹が赤や黄色に染まる。寒い冬がきて暖かい春がきて、暑い夏がくる。
来年の今頃、俺たちはどうなっているんだろう。
全部記憶が戻った旭とあんなこともあったなって話しているのか、このままの旭とあれからもう一年だねって話しているのか。全然想像がつかない。
けれど、これからの旭との生活に自然と不安はなかった。
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