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47.✧変わらないもの
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✧✧✧✧
近所のスーパーで買い物を終えてマンションに帰ってきた。今日は時間があるから和食を作ろう。旭も俺も食べ物の好き嫌いがないし好みが似通っているから楽だ。
「ただいま」
家の中に向かって声をかけたけど返事がなかった。……またか。
昨日に引き続き旭の出迎えがない。
今日はどうしたのかな、とリビングに行くも旭の姿は無かった。玄関に靴があったから外には出てないはずだけどどこ行ったんだろう。
「旭ー?」
買ってきたものを冷蔵庫に入れて旭を呼んだ。返事がないからどこかの部屋にいるのだろうか。寝室、トイレ、風呂……旭の名前を呼びながら探し回る。
「あさひー?あさー?あっくーん?」
「……ちょっと楓さん!!……何その呼び方!?」
「お前そんなとこにいたのか」
小さい頃のあだ名で呼んだら旭が自分の部屋から飛び出してきた。普段は名前呼びだからこういうのもいいな。
「も、もう一回呼んで……!」
「ん?あっくん?」
強請られてもう一度呼ぶと旭は頬を赤くした。
なんか最近、照れてばっかりだな。だんだん面白くなってきたけど、慣れてしまっても面白くないからたまに呼ぶことにしよう。
「で、何してたの?」
「絵描いてたら寝ちゃって……」
「床で?」
「ううん。……机に突っ伏して寝てて、楓さんの声が聞こえるなーと思ってたら、変な呼ばれ方してびっくりして飛び起きた」
昼寝を邪魔されたからか旭は不貞腐れていた。さっきまでの顔も可愛いけどこれはこれで可愛い。
それにしても、滅多に部屋で作業をしない旭が何の用があってこんなところにいたんだろう。絵を描いていたと言ったけど、この旭がそれに興味を示すなんて面白い。
入り口から動こうとしない旭の肩を押して部屋の中に入る。
「か、かえでさん!?」
「はいはい」
「ちょ、だめっ!」
「……ん?」
勉強道具が端に退けられたデスクにはスケッチブックが広げられていた。左のページには今年の春頃の日付が記されている。前の旭が描いたデッサンだ。
そして右ページには描きかけの人物画があった。こっちは今の旭が描いたものか。
「これ両方とも、俺だね?」
そういえば前の旭はよく、俺が仕事部屋で仕事している時にやってきて横で何やら描いてたな。静かにしていたから放っておいたけど、まさか俺を描いていたとは思わなかった。
「わ、わかる?前の俺も楓さんばっかり描いてたみたいでさ。俺にも描けるかなって……。他の絵を見ながらだけど……。こうやって絵を描いてるとね、前の俺の気持ちがわかる気がするんだ」
たぶん、この旭は記憶を無くす前の旭と繋がっていて、旭がいるのは前の旭の延長線上だ。忘れていても自分の事だから無意識に分かっちゃうのかな。
やっぱり、旭は旭だ。記憶がないだけで、中身もきっと何も変わっていない。
「完成、楽しみにしてるから」
そう言うと旭はとても嬉しそうに頷いた。
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