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48.✩二人の好き
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✩✩✩✩
『あっくん』
ずっとその声が頭から離れない。
仕事を片付けてくるから先に寝てなさいと言われたけど、この言葉があの低くて優しい楓さんの声でずっと脳内再生されて、俺は今ベッドの上で一人悶えている。
今日楓さんにそう呼ばれて、どこか懐かしい響きで心がふわふわした。もっと呼んでほしいけど、毎回それで呼ばれてたら心臓がもたないと思う。
一人幸せに浸っている俺の後ろで小さくドアの開く音がした。やっと楓さんが来たらしい。
寝室はほぼ真っ暗だったけど、夜目が効くのか楓さんは俺の頭を一撫でして布団に入ってきた。
撫でるの好きだなぁ……。頭とかほっぺとか。俺も楓さんにこうされるの好きだからいいんだけど。そんなに俺の頭は撫でたくなるものなのかな?自分の頭を撫でてみるけど別に何も思わない。そりゃそうか、自分のだし。
背中を向けている楓さんの頭に手を伸ばす。暗闇に溶けるサラサラの黒髪。同じシャンプーを使ってるはずなのにやけにいい匂いがした。
「ん……なに、どうしたの……」
さわさわと楓さんの髪を弄っていると、くすぐったかったのか楓さんが体ごとこっちを向いた。腕が腰に回ってきてグイッと引き寄せられる。こんな男を抱き枕にしたって……。
楓さんの胸が目の前にくる形になって楓さんの匂いを強く感じた。
……やばい、ドキドキしてきた。
こうやって抱き合って寝るなんて、恋人みたいだ。
きっと、前の俺は楓さんの事が好きだった。
思い出したとかじゃなくて、なんとなくそうなんだろうなと思った。柚里とカップルに見られた方がいいというのも、俺の好きな相手が男だからわざわざカモフラージュのためにしていたんだと気づいた。
もしかしたら、俺が楓さんの事を好きになったのは前の俺の名残りかもしれない。
……でも、それでもいいかな。はじまりは前の俺の気持ちだったのかもしれないけど、今の俺はちゃんと楓さんの事が好きだし、楓さんを好きになれて幸せだから。
そして、楓さんも前の俺の事が好きだったんだと思う。最低でも、記憶をなくした俺の面倒を見てくれたり一緒に暮らしてくれたりするくらいには、前の俺のことを好きだったはずだ。
楓さんと前の俺、二人の好きが同じだったのかはまだ分からないけど、同性の幼馴染だし手を繋いだりハグし合ったりするくらいには仲良かったんだろう。
写真の中の二人が手を繋いでいることには、少し前から気づいてた。
俺は楓さんと繋いだことないな……。楓さん以外もないけど。繋ぎたい、って言ったらさすがに変っていうか気持ち悪いよね……。楓さん、彼女いるのに。
……そうだ楓さん、彼女いるんだった。じゃあ前の俺と気持ちが同じだったわけじゃないのか。いやでもそうしたら男同士で手を繋いだり抱き合ったりなんてするのかな。小さい頃から一緒にいればコミュニケーションとして当たり前になっていたりするのかもしれないけど……。それとも単に男同士とかそういうのを気にしない人なのかな。
仮に前の俺とはコミュニケーションでしていたとして、記憶をなくした俺にもしてくるってことはどういうことなんだろう。
そんな風に思考がぐるぐると回り始めてしまって眠れなくなりそうだったから、ため息をついて考えるのを止めた。胸に顔をすり寄せると、楓さんの心臓がトクトク鳴っているのが聞こえた。……なんだか、ものすごく落ち着く。
そのまま楓さんの心臓の音に耳を傾けていたらいつの間にか眠っていた。
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