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50.✩対峙
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✩✩✩✩
楓さんはひどい人だ。
俺が恥ずかしがっているのを見て楽しんでいるんだから。今朝だって生理現象だから仕方無いとか言ってたけど、恥ずかしくて死ぬかと思った。
……生理現象なのに同性相手に恥ずかしがってる俺がおかしいのかな?
「旭、なんだか浮かない顔ね。さては楓と何かあった?倦怠期かしらね?」
柚里と出会ってから、学校のある日はこうして授業が始まるまでカフェでゆっくり話すのがお決まりになっていた。
「倦怠期って……そんな、夫婦じゃないんだから。それに、付き合ってないよ」
「え、まだ付き合ってなかったの?まったく、こんな健気な子を放っておいて、楓のやつ何してるのかしら」
どうやらいつの間にか柚里の中では付き合っていることになっていたらしい。放っておくどころか、こっちが放っておいてとお願いするくらいには、朝からすごい構ってきたけどね……。
「あ、そうだ。午後から私、他校に行くから一緒にいられないわ。ごめんなさいね。市倉には気をつけるように」
「分かった。柚里も気をつけて行ってきてね」
月に数回、柚里は他校で受ける講義を取っている。俺は取っていないから、その講義中と前後は他の友達と行動するように言われていた。
俺と市倉が接触しないようにどれだけ徹底してるのやら……。
予定通り午後から柚里は他校に行ったから、俺はいつも何かと一緒にいる友達グループと合流した。別に俺だって柚里以外と行動しないわけじゃない。
柚里とは講義もほとんど一緒だからずっと一緒にいると思われてるけど、よく昼時とか学校が終わった時とかは柚里も含めたこのイツメンといる。
それぞれ講義や授業を受ける校舎が違ったりするけどなるべく一人にならないように注意していた。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「おー、一人で大丈夫か?」
「トイレくらい大丈夫だってー」
親しい友達は柚里から『危なっかしいから旭を一人にしないで』と頼まれているらしい。俺が記憶喪失だということもうまい具合に誤魔化しているらしい。「やっぱり和泉は天然だな」なんて納得されるのもなんだか複雑な気持ちだ。一体、前の俺は友人とどんな付き合い方をしていたんだろう……。
「やっほー和泉。今日はアイツいねぇの?」
用を足して手を洗っていると、後ろから声をかけられた。ビクッとして顔を上げると鏡越しに男が見えた。全然気配しなかった……。
誰だこの人と思ったけど、声と口調に聞き覚えがあった。そして、いつか卒アルの写真で見た顔。双子というだけあって柚里と似ているけど、男女の差を引いて柚里の方がもっと上品な雰囲気がある。
こいつが、市倉遼介……。
「ねえ、オレね、和泉と話したいんだー」
「………………」
「その様子だと、柚里から俺のこと聞いてるみたいだな。近づくなとでも言われてんの?」
無視してこのまま立ち去ろうとしたけど、市倉はダンッと足で入り口を塞いだ。柔らかい口調に反しての荒い行動に違和感を覚えた。
「平坂楓先輩のことなんだけどなぁー」
「…………何の用」
「話ししてくれる気になった?こんなトコじゃなんだし場所変えようか」
にやっと口角を上げて笑ってるのに目は鋭く俺を射ていて、本当に敵視してるらしい。
市倉に言われるままにトイレを出て後に着いていく。
この時の俺は、柚里の忠告をまだ少し軽んじていたし、市倉がどれだけ危険でどれだけ歪んでいるのか自覚していなくて、頭のどこかで大丈夫だろうと高をくくっていた。
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