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56.✧優越感
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✧✧✧✧
「何にしようかな……。やっぱ度数の低いやつがいいよな?」
旭が帰ってくる前に買い物を済ませてしまおうと近所のスーパーに来た。一通り食材をカゴに入れて今は酒のコーナーでどれにしようか迷っているところだ。
けっこう長く悩んで最終的に飲みやすいのがいいと思い、女性をターゲットにしているような缶チューハイと兄貴と飲んだ時にもあったビールを何本か買ってみた。
いつもより重い買い物袋を片手にマンションのエントランスを通るとエレベーターの前に旭がいた。旭もちょうど帰ってきたところらしい。
「旭」
「あ、楓さん」
旭は目を丸くして俺を見ていたけど買い物袋に気がついて微笑んだ。
到着したエレベーターに乗り込んで部屋に入るまで旭は口を開かなかった。直接言ってはいないけど、俺が共用部分で話すことを嫌っているのを察してくれてるらしい。
鍵を開けて玄関に入ると旭はふふっと笑いだした。どうしたのかと旭の方を見ると、旭は俺の手から袋を取って廊下を進みながら話し出す。
「なんか、楓さんマンション内で全然喋らないから、マンションに住んでる人は楓さんのこと無愛想な人だと思ってるのかなって思ったら、ちょっと嬉しくなっちゃった」
「嬉しい?」
「たまにすれ違う若いOLさんとか、楓さんのことすごい見てるよ?熱い視線でね。なのに楓さん微笑んで会釈するだけなんだもん。ここの住人はみんな、楓さんの声聞いたことないんじゃない?」
ざっくり言えば、このマンション内には自分以外に俺と親しい人がいないから嬉しい、ってことか。
それって……嬉しいというより優越感に近いだろう。
「可愛いこと言ってくれるね。けどお前はどうなの?ここの住人じゃないの?」
「ああ、そっか。じゃあ俺と楓さん以外で?」
「まあ、そうなるね」
袋の中から使う物をカウンターに並べながら答えてやると、旭はカウンターに肘をつき嬉しそうに目を細めた。今日はリビングに行かないらしい。
「エプロンつけて料理作る楓さんって、奥さんみたい」
「俺が奥さんだったら旭が旦那?俺はジジくさかったり奥さんみたいだったり忙しいね」
「楓さん忙しいの?じゃあ俺も手伝うよ」
手伝いたかったなら素直にそう言えばいいのに。旭はたまにまわりくどい事をする。それも可愛いし面白いから全然いいんだけど。
旭と二人で作った夕食をテーブルに並べて、冷蔵庫から冷えた酒を持って来る。
プルタブに指をかけて力を込めて引くとカシュッと小気味のいい音がした。
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