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62.✧軌道修正
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✧✧✧✧
夢の中で誰かが俺の名前を呼んでいる。
何度も呼ばれて振り返ると、小学校低学年くらいの旭がいた。
『かえで、かえでっ!』
声変わりする前の高い声で無邪気に俺を呼ぶ。この頃の旭は素直で可愛かったな……。
『楓〜!』
また呼ばれて振り向くと今度は中学生の旭だった。さっきよりも大人っぽくなってる。この頃からだんだん生意気になってきたんだよな。反抗期って感じがして少し寂しかった。
『楓……』
次に俺を呼んだのは高校生の旭。年下とは思えない色気で俺を見下ろしている。そんなに昔の事じゃないのに、すごく懐かしい。
「……か……さ……!かえでさ……!!」
今度はいつの旭だろう?
体を揺すられてうっすらと目を開くと、目の前に今にも泣き出しそうな顔の旭がいた。
「あ、さひ……」
「っ!楓さん!大丈夫!?楓さんっ!」
何で旭がそんなに慌てているのか分からなかった。体の自由がきかなくて見るとどうしてだか毛布に包まれていた。
起き上がろうとするとズキリと頭が痛み、上手く腕に力が入らなくてソファーに倒れ込んだ。
床に座っていた旭はそれを見てとうとう涙を流した。
ああ、もう、泣くなって……。
「……うう……かえでさ……ぜんぜん、目ぇあけないからっ……おれっ……ううぅ……」
「なに……どうしたの……?」
涙でびしょびしょになった旭の頬を袖で拭ってやると旭はびっくりしたような顔で俺を見上げて、今度は泣きながら力のない拳で俺の胸板を叩いてきた。
「ちょっと……何?」
「こんな季節に、窓開けっ放しにしてっ!まだ昼間ならいいけどっ……俺が帰ってきた時、楓さん、冷たくなってたんだよ!?」
……窓?……ああ、そういえば俺、掃除しようとしてたんだっけ。ソファーに座って物思いしてるうちに眠ってたのか……。窓の外はすっかり暗くなっている。
「……ごめん。もう大丈夫だから」
「心配させないでよっ、……ばか……!」
旭は叩くのを止め、毛布ごと俺を抱きしめて泣きじゃくりだした。目を瞑って旭を抱き返す。その頭を撫でようとすると、先ほど夢に出てきた高校生の旭が脳裏に浮かんだ。
『心配させんなよ、ばーか』
前の旭にも同じようなことを言われた。あの時はたしか保健室だったっけ……。本当に、懐かしい。
……ほら、やっぱり駄目だ。
旭に触れると前の旭を思い出してしまう。そんなこと今目の前で泣いている旭は望んでないのに。
撫でようとした手を旭の肩に置きゆっくりと旭から体を離すと、旭はまだ心配なのか不安そうな顔をしていた。
大丈夫、この三週間、触れないでこれた。旭のいない一ヶ月間だって耐えられた。だから、きっとこれからも……。
今ならまだ間に合う。初めに俺が望んだ未来にきっと軌道修正できるはずだ。
旭が自分の家庭を持つ、幸せな未来に。
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