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63.✩喜怒哀
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✩✩✩✩
楓さんがやっと目覚めたことに安堵して俯くと、視線の先にある自分の手が少し震えていた。
楓さんはかなり体調が悪いみたいで、虚ろな目で俺を見ている。普段から体調管理だけはちゃんとしている楓さんが、今日に限って窓を開けたまま昼寝するなんて。
そういえば最近、何か思い詰めた表情をしてる時があったけど……。
やっぱり原因は……俺、だよね……。
起き上がろうとした楓さんの体がふらりと傾いてソファーに倒れ込んだ。
こんなになるまで追いつめてしまったのか。悲しくてじわりと涙が出てきた。ダメだ、ここで泣いたら止まらなくなる。そう思うのにどんどん涙が出てきて、ついに溢れて頬を伝った。
楓さんの手がのびてきて反射的に目を瞑ると優しく袖で涙を拭われる。驚いて見上げると楓さんは何故か微笑んでいた。
そして楓さんは「なに、どうしたの?」なんて、こっちの気持ちも知らないで言ってのけた。
どうしたの、じゃないよ!
こっちがどれだけ心配したと思って……!
…………でも楓さんは悪くないし……。
悲しさに加えていろいろな感情が溢れてごちゃごちゃになって、更に涙が出てきた。
楓さんの馬鹿、と心の中で呟きながら軽く楓さんを叩く。
そんな俺を見た楓さんに「ごめんな」と謝られてしまった。
本当に……、本当に心配したんだ……。
叩くのを止めて楓さんに抱きつくと、楓さんはしっかりと抱きしめ返してくれた。背中から首筋へと楓さんの手が移動する。
いつもなら……いや、前までだったらこのまま頭を撫でてくれたけど、楓さんの手は一瞬迷ったあと俺の頭を撫でずに肩に置かれた。
……撫でてくれないの?
楓さんは肩を押して俺から体を離すと顔を覗き込んできた。
その目を見て息を呑んだ。
何かを決心したような力強い目だった。
「か、えで、さん……?」
「……心配かけて、悪かった。でももう、旭に心配かけないから。今まで、ごめんな」
「……っ、楓さん!」
今までごめんな、って……ここ三週間のことだよね。もしかして、前みたいに接してくれるのかな……。
また俺に、触れてくれるんだ!
さっきまでの悲しさなんてどこかへいって、嬉しい気持ちでいっぱいだった。
その日は嬉しさが抑えきれなくて、楓さんにベタベタしてしまった。
楓さんも触れてこなかった三週間を取り戻すかのように、たくさん撫でて抱きしめてくれた。
翌朝起きると、リビングのテーブルに書き置きがあった。
慌てて家中の部屋という部屋を確認する。
リビング、ダイニング、キッチン、トイレ、風呂、寝室、ゲストルーム、俺の部屋、楓さんの部屋、仕事部屋……。
入れそうな所は全部探した。
何一つ変わってない。何も減ってない。
なのに………
「っ……なんでっ…………」
クシャリと書き置きのメモを握り潰す。
家のどこを探しても、楓さんの姿はなかった。
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