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66.✧先輩
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✧✧✧✧
そういうわけで、それからずっと奇妙な関係を続けてきた。
先輩で後輩で友達でセフレで……。俺が上だったり、静輝が上だったり……。
静輝は俺に、男に抱かれることも男を抱くことも教えてくれた。
俺たちが進級する頃には、先輩後輩なのに名前を呼び捨てで呼ぶくらい距離が近づいていた。結局俺の砕けた中途半端な敬語は直らなかったけど。
きっとお互い好き合っていたけど、恋人という関係には一度もならなかった。友達以上恋人未満的な感じ。たぶん、当時の俺にはまだ、男と体を繋げることはできても男と付き合う度胸なんてなかったんだと思う。相手が静輝だったから尚更、そういう曖昧な関係でも大丈夫だった。
俺も静輝も女には困ってなかったのにどういうわけかその関係が心地よくて、静輝が高校を卒業するまで続いていた。何度かお互い彼女ができたりもしたけど、でも静輝とは一度も途切れることはなかった。
だけど静輝と入れ替わるように旭が入学してきて、知らないうちに男として成長していた旭は見事に俺の心を掻っ攫って行った。途切れることのなかった関係が、そこで初めて切れた。たまに静輝の家に遊びに行くことはあっても、そういうことはしなかった。誘われた時、拒否する俺を見てついに『運命の彼女』でもできたかって笑ってたな。
俺が大学に進学する時には『一緒に住まないか?』と誘われたけど、このまま静輝と曖昧な関係を続けるなんて旭に悪いと思って、旭との関係を全部話して断った。まさか自分と関係を切った理由が男だったなんて、とこれまた面白そうに笑っていたけど。
旭のことが大好きだったから。静輝との心地よい関係を捨てたとしても俺は旭と一緒にいたかった。
だけど俺は、静輝と前の関係に戻ろうとしてる。
最低でもいい。
とにかく旭から逃げたかった。
旭からくる不安を、覆い被さってきてるこの男に拭って欲しかった。
「楽に……できるんですか?」
「できるよ。だから、俺を選ばない?」
「それは……」
「そんなに和泉旭が好き?俺よりも?」
「自分でも分からないんです……。だって、俺の好きだった旭は、もう……」
いないんだから、と続けようとして口を塞がれた。
ちゅ、と音がして離れていった唇が、今度は瞼に寄せられる。目を瞑るとふわりと優しくキスをされた。静輝の匂いに包まれてひどく安心する。もしあの時、旭に惚れなかったら、旭を選ばなかったら……。俺が選ばなかったもう一つの未来には静輝がいたんだろう。
「楓、泣いてるよ。怖いの?」
自分でも泣いてることに気がつかなかった。旭の前でも泣けなかったのに、静輝の前では泣けるなんて……。
自分で自分の心の中から旭を追い出そうとしてるのに、それが怖くて悲しくて辛い。
「俺も、全部忘れることができればいいのに」
「全部ってことは俺のことも忘れたい?」
「……っは、どうだろ、んっ……」
曖昧に笑って答えると静輝の手が服の中に入ってきて俺の腹筋をなぞった。さわさわと撫でながら上へ上へと移動する。
体はちゃんと静輝の愛撫を覚えていて、久しぶりなのに触られてしっかりと反応する。
「ま、忘れたら、こうやって思い出させるけどな」
「っふ、あっ……、はぁ……」
「……あ、そういや昨日、後輩が泊まってさ。ヤっては無いんだけど男と同じベッドで寝たらなんか、お前のこと思い出した」
「後輩?」
何で今その話するんだよ、と思いながらも、静輝が家に泊まらせるなんてどんな奴だろう、と少し興味がわいた。
「たぶんそろそろ起きてくるし、このままここでシたら確実に居合わせるよな。まあ、俺はそれでもいいけど」
「なっ、そういうことは早く言ってくださいよ馬鹿!ヤるわけないでしょ!」
何食わぬ顔で続きをしようとする静輝を止める。俺は他人に見られながらヤりたいなんて性癖は無いし、知らない奴に肌を見せる気もない。
上にいる静輝を慌てて押し返して服を整えていると、二階へ続く階段を下りる足音がした。
俺は結構耳が良い。記憶力も良い方だ。
だから、下りてきた男の声を聞いた瞬間、俺の思考回路は停止した。
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