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68.✩原因不明
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✩✩✩✩
楓さんに言われたからちゃんと学校には行った。……けど全然講義に身が入らなくて、最後の講義が終わった瞬間に見かねた柚里にいつものカフェへと連行された。
「はぁ…………」
「…………」
「……はぁ…………」
「……ああもう!ため息ばっかり!」
しびれを切らした柚里がバンッとテーブルを叩く。カフェにいる人がその音に驚いて何人かこっちを見たけど、柚里はそれを気にせず俺の前に座って威圧感を放っている。
それをスルーするくらいには俺は今、ものすごく落ち込んでいた。というか落ち込まない方が難しいだろう。
柚里には楓さんが出て行ってしまったことは話した。柚里は何を思ったのか『そんなの気にしない方がいいわよ』と言ってきたけど、そんなの絶対無理だ。
「だって……楓さんが……」
「楓にだって何かしらの理由があるんじゃないの?」
柚里は俺たちの間に置かれた紙に視線を落としてそう言った。今朝、リビングに置いてあった楓さんからの書き手紙だ。
「しばらくしたら帰って来るでしょう」
「……いつ?」
「いつって言われてもそんなの私には分からないわよ。楓の気分次第じゃない。……どうして楓が出て行ったのか、心当たりはないの?」
「ありすぎてどれだか分かんない……」
本当にありすぎて逆に原因不明だ。
柚里に会うまでは昨日のことかな、と思っていたけど、『心当たりは?』と聞かれれば、あれもこれも……もしかして全部、って次々に出てきて負の連鎖に陥る。挙げ句の果てには、『そもそも前の俺が記憶をなくすのが悪いんだ!』なんて前の俺に責任転嫁しようとしてる自分がいて、本当に後悔に押し潰されそうだった。
「でも、やっぱ、昨日のことかなぁ……」
「昨日?」
「うん。その前に三週間くらいずっと楓さんが、なんていうか……構ってくれなくて。それで、昨日俺が帰ったら楓さんが窓開けっぱなしで昼寝してて――」
昨日あったことを中心にここ最近の事を洗いざらい柚里に伝えると、柚里は頭が痛くなったのかこめかみに手を当てて苦い顔をしていた。
「さすがにすれ違い過ぎというか、聞いてるこっちが泣きたくなるわね……。楓はもっと素直な人だったはずだけど……」
「うぅ……俺のせいだ……。もうダメ、楓さんがいない家になんて帰りたくない……、楓さんがいないと生きていけない…………」
「そういうのは楓に言いなさいよ……」
「電話もメールも無視されてるしどこに居るのかも分からないのに、どうやって言えるわけ……?」
自分で言ってて泣きたくなった。電話もメールも無視されるなんて相当嫌われてしまったらしい……。
いくら柚里でも楓さんの交友関係まではさすがに詳しくは知らないらしい。楓さんがあてにしそうな人がいるか二人で悩んでるとカフェの外に市倉の姿が見えた。にこにこと機嫌が良さそうだ。
「うわ、市倉じゃない。なんであんなに機嫌が良さそうなのかしら?気持ち悪いわね」
「えっと……」
サラリと毒を吐く柚里と共に窓ガラスの向こうにいる市倉を見ていると、市倉がこっちに気づいて手を振ってきた。それを俺はどうすることもできなくて柚里を見ると、何も見なかったことにしたらしくケーキを選んでいた。
あからさまにむしされたのになぜか市倉は幸せオーラを放ちながらカフェへやって来て、それと同時に柚里がギリギリ聞こえるくらいの小さな声でまた毒を吐いていた。
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