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72.✩手がかり
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✩✩✩✩
楓さんのいないマンションに帰ってきた。
いつも俺が帰ってくる時間を見計らって楓さんがつけてくれる玄関の照明も、当然のごとく今日はついていない。
真っ暗な廊下を進んで自分の部屋に行く。
カチャッとドアを開ける音だけが物静かな空間に響いて、嫌でも俺一人だけなんだと実感させられた。
入ってすぐの所、壁に飾られた写真に触れる。
卒業アルバムに挟まっていた写真だ。
飾りたいと言ったら楓さんがフレームを買ってきてくれた。
仲良さそうに手をつなぐ二人を見て胸が痛くなる。
俺も、楓さんとこんな風になりたかった。
わがままなんて言わないで、好きな人と一緒にいられて十分だって思えていれば。いや、途中までは思えていたんだ。でも、俺はそれ以上を求めてしまった。
楓さんのことも前の自分のことも何も知らないのに、もっともっとって欲張ったのがいけなかったんだ。いまさら後悔したって遅い。
だけど…………。
「このままじゃ、ダメだよね……」
記憶が戻った時―――前の俺に戻った時の為に、楓さんとの関係を少しでも修復しないと……。
記憶が全て戻った時どうなるか分からないけど、もし今の俺が消えるんだとしたら今の俺の記憶もなくなるだろう。なんとなく、そう思った。事故にあって気付いたら家に居た、みたいなことになりかねない。
何も知らない俺がこのまま存在し続けたって何になるというのだろう。さっさと記憶を取り戻して、この体を前の俺に返して消えよう。消えるのかすら分からないけど、『記憶がないときの自分』として前の俺に消化されてしまうだろう。
問題は、どうやったら記憶が戻るか、だ。
今まで少しでも記憶が戻った時と言えば、料理作った時と、スケッチブックの時。あ、あと楓さんが、キスしてくれた時。
数えてみたらそんなになかった。全部楓さんがきっかけだ。楓さんがいないと記憶が戻らないのかな?だったら、今は無理か……って、そんな事思ってる場合じゃない。
何か前の俺に関わりのあるもの……。
俺の部屋にあるものは見ても触っても、何故か記憶が戻りそうな気配が無かったから期待できない。
リビングとかダイニングとか、日常生活の中で使う場所も同じだ。
じゃあ楓さんの部屋とか、仕事部屋は……?
いや、許可なく入って楓さんに迷惑かけたら嫌だし迷惑をかけない範囲で探したい。
寝室もベッドとサイドテーブルくらいしか手がかりになりそうなものは無いし。そういえば、寝室の方のウォークインクローゼットはどうだろう?立ち入り禁止とは言われてない。
俺も楓さんも自室にクローゼットがあるからそれを使ってる。ウォークインクローゼットには今朝しか入ったことが無かった。しかもその時は動揺しててちゃんと見てない。ウォークインクローゼット探して、ついでにゲストルームも見てみよう。
何か手がかりがあればいいな、と期待しつつ俺は部屋をあとにした。
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