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74.✧約束
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✧✧✧✧
旭と向き合う決心はついたもののちゃんと伝えたいことを整理してから家に戻ることにして、あれから静輝の出勤時間まで旭が戻ってきてからの生活のことや仕事のことを話したり、途中で空腹を訴えてきた静輝に朝食を作ってやったりして過ごした。久しぶりに静輝と過ごす時間も、旭とはまた違った心地よさがあって落ち着く。
「出かけるときは戸締まりよろしくな。それじゃあ、行ってきます」
「ん。行ってらっしゃい」
「……あーあ、まじで楓が嫁に来てくれたらなぁ」
「はは、またそんなこと言ってるんですか。ほら早くしないと遅刻しますよ」
見送りに来た玄関でそんなことを言われて受け流すと、「わりと本気なんだけどな」と真面目な表情をされて固まる。そんな俺を見て静輝は笑って出ていった。冗談だよと言い直さなかったから本当に本気で言っていたのだろう。静輝はそういうところはとてもはっきりしている。
「まあ今更気にしてもな……」
今までにも何度か同じような言葉を言われたことがあったけど、それで関係が変わったということもなかった。静輝にそういうことを言われるのは嫌なわけじゃないけど、関係が関係なだけに複雑な気持ちだ。まったく静輝も、自分のところにいてほしいのか旭のところに行ってほしいのかどっちなんだ。まあ俺の気持ちが旭から動くことはないと静輝も分かって言っているだろうから、結局俺の反応を見て遊んでいることに変わりはないけれど。
市倉と飲みに行く時間まで暇ならば、とついでに頼まれていた掃除や洗濯を片付けて時間を潰した。
男一人暮らしだからそんなにやることもなくすぐ終わって、勝手に淹れたコーヒーを片手にソファーに座ってテレビを点けた。
「なんか、ダルいな……」
心なしか寒気もするし、頭痛がひどくなっている気がする。もしかすると風邪でもひいたのかもしれない。市倉との約束の時間までに治ってくれればいいんだけど……。
適当にチャンネルを回すとやっていたのはお昼のバラエティ番組で、前に旭が言っていたアイドルユニットが出演していた。
双子ではないけど、メイクや雰囲気のせいでそうだと言われても違和感がない。この二人は雑誌の表紙を飾り特集を組まれるほどビジュアルもいいし、パフォーマンスも他のアイドルよりも群を抜いている。正反対な性格の二人が個性的で面白い、と世間では超人気アイドルとして幅広い年齢層から親しまれてる。
「これも……旭に言わないと、だよな」
画面の中でお茶の間に手を振っている二人を見たら余計に頭が痛くなった。
夜になりガンガンと響くような頭痛に耐えて市倉との待ち合わせ場所で待つ。クリスマスまでまだ一ヶ月以上もあるのに、街は気が早いのかハロウィンが終わった途端にクリスマス一色だ。
そんな景色を眺めながらデパートの外壁に背中を預けている俺の前を、仕事帰りのサラリーマンやOLたちが忙しなく行き交っていく。
約束の時間ちょうどに、人混みの中から市倉が現れた。
「先輩っ!すみません、遅くなりましたっ!」
走ってきたせいで息を切らしている。バイトが少し長引いてしまったらしいけど時間ぴったりだ。遅刻して待たされたわけじゃないし別にいい。
市倉は息が整うと「それじゃ、行きましょうか」とさり気なく俺の手を引いた。
「……こんな人が居る所で手繋ぐなよ」
「この人混みではぐれちゃったら困るんで、少しの間我慢しててくださいよ〜。すぐ着きますから」
「……………」
何も言わないでいるのを了承と受け取ったのか、繋がれた市倉の手の力が強くなった。
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