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76.✧市倉と酒
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✧✧✧✧
手を繋がれたまましばらく歩くと市倉はとある店の前で足を止めた。その隙にするりと手を解くと市倉は眉を下げて微笑んだ。旭にだったらときめくのにな、なんて。
「入りましょうか」
困ったような笑顔のまま市倉は言って俺をエスコートしてくれる。連れてこられた店……もといバーは、市倉の知り合いが経営しているらしく、市倉はその知り合いであるマスターと二言三言言葉を交わしてカウンター席についた。
ちょいちょいと市倉に手招きをされて俺もその隣に座る。
暖色系の照明で柔らかく照らされたシックな店内と、それに合わせて選曲されたというジャズのメロディー。バーなんて友人の店以外滅多に来たことないけど、この雰囲気けっこう好きかもしれない。
「先輩何にします?」
「あんまり度数高くないのがいい……。市倉選んでくれる?」
「おっ!お任せしてくれるんですか?んー、これなんてどうですかね?」
「じゃあそれで」
ダルい体に鞭打ってどうにかここにいる感じだ。ほんとはこういう時に酒なんて良くないんだろうけど……。
俺の隣ではオーダーし終えた市倉が楽しそうにニコニコしている。特にこれといって会話してるわけでもないのに、変なやつだ。
「俺と飲みに来て楽しい?」
「楽しいし、嬉しいんですよ」
「へぇ、そんなに?」
「ええ、かなり」
市倉は出来上がった酒を煽りながら俺の目をじっと見て微笑んだ。真っ直ぐ見つめてくるからなんとなく気恥ずかしくなって、市倉から目を逸らす。ちゃらちゃらしたやつだと思ってたけど、意外と真面目そうな感じもする。ほんとに変なやつ……。
頭痛のせいか慣れない状況のせいかはたまた別の理由があるのか、頭がぼーっとしてせっかくの酒の味がよく分からなかった。
ほとんど会話もしないまま一時間ほど経ち、そこそこ飲んだから店を出ることにした。
市倉は俺の知らないうちに二人分の会計を済ませていて、自分の分は払うと言ったらやんわりと断られた。さすがに年下に奢られたままでは、と食い下がったら『それならまた一緒に飲みに行ってくれませんか』と言われて思わず頷いてしまった。
一回だけならと思って誘いにのったはずが次の約束まで……。
「……先輩、家まで送って行きますよ」
「えー、いいよ。酔ってないし一人で帰れる」
「酔ってないってか酒飲む前から体調悪いですよね?今こうやって歩いてるのもやっとって感じじゃないですか。……無理して付き合わせちゃって、すみませんでした」
驚いて立ち止まり、数歩先で振り返った市倉を見る。初めから体調悪いの気づいてたのかよ……。
本当に心配してくれているようで、結局市倉の言葉に甘えることにした。まだ言いたいことをまとめ切れていないからこのまま家に帰って旭とちゃんと話せるかどうか分からないけど、酒が入ってる分いつもよりは素直になれるはずだ。
タクシーを捕まえ乗り込もうと一歩足を踏み出した瞬間、視界がぐにゃりと歪んで重力に従って体が倒れる。
幸い地面とぶつかる直前で市倉が受け止めてくれたらしく衝撃は無かった。
ガンガンと鳴り響くような頭痛の中、俺の意識はそこで途絶えた。
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