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78.✩狂気
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✩✩✩✩
日付が変わっても楓さんは帰って来なかった。
『しばらくの間、家を空けます』って本気だったんだ……。心のどこかで、楓さんは帰ってくるって思ってた。
だからこうして家に一人だけで居ることが、楓さんの本気さを窺わせてならない。
「早く、帰ってきてくれないかなぁ……」
手の中にある本の表紙を撫でる。
楓さんが毎日寝る前に読んでる本と同じシリーズのもので、ゲストルームにあるデスクの引き出しに入っていたものだ。ふとページをぱらぱら捲ると膨大な活字の中に写真が挟まっていた。
栞の代わりに挟んでいたのかな、と裏返しのそれを何気なく手に取り表に返してみる。目の前に切り取られたそのシーンに体が固まった。直感的に見てはいけないものだと判断して写真を伏せたけど、だけど好奇心の方が勝ってしまってゆっくりとまたそれと向き合う。
楓さんと一緒に一人の男が写っていた。
いつの写真なんだろう……。
眠っているらしい楓さんとは対照的に男は微笑んでカメラに視線を向けている。角度からして写真は男が撮ったものらしい。
肩から上しか写ってないし下半分が布団か何かで覆われているみたいだけど、二人とも服を着ていないみたいだった。肩や首に赤い跡をつけた楓さんを後ろから抱き込むようにして横になっている。二人が寝ているのはベッドなのだろう。シーツや枕の色がゲストルームのとよく似ている。
裸で眠る人はよくいるけど……楓さんの肌に付いている赤い跡。しかも生肌を密着させる関係。
二人が"そういうこと"をしていたのは、そういった経験のない俺にでも分かった。
どうして、という気持ちと共にズキリとした胸の痛みと既視感に駆られた。
この人、どこかで見たことある。
おさまっていたはずのモヤモヤがまた出てきて一瞬にして心を黒くした。胸の辺りがザワザワとして落ち着かなくなる。彼女さんの時と同じようにドロドロとした嫉妬で気分が重くなる。
この人誰だっけ……。楓さんにこんな風に触れるなんて……。
今すぐ楓さんに会いたい。
楓さんの体を、心を、全部を、自分のものにしたい。
この黒い心は楓さんじゃないと綺麗にできない。
けど……これじゃまるで市倉と同じだ。
自分の中にどす黒い狂気のような気持ちがあることに気づいて、楓さんを壊してしまうんじゃないかと怖くなった。
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