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84.✩伝わる
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✩✩✩✩
一瞬何をされたのか分からなかった。
目を閉じるのも忘れてすぐ目の前にある楓さんの真っ黒い瞳を見つめると、細められた切れ長の目がしっかりと見つめ返してくる。
息をするのもままならないのに、何度も角度を変えてキスをされ堪らずにぎゅっと目を瞑る。とどめにチュッとリップ音がして楓さんが離れていった。
はぁ、はぁ、と肩で息をして足りなくなった酸素を肺に送り込む。
腰が抜けてしまって体に力が入らなくてくたっと楓さんに寄りかかると、楓さんは俺の顎を掬い意地悪な笑みを浮かべてペロリと俺の唇を舐めた。
「っ……!!」
「顔真っ赤だね、可愛い」
「な、んでっ……!!」
「ふふ。好きだよ、旭」
す、好きって??
まさか……楓さんが、俺を?
そんなこと……
「う、嘘でしょ……」
「本当だよ。俺は旭の事が好き。今のお前のことが、旭と同じ意味で、好きだよ」
「そ、んなに、何回も……好きだなんて……」
「好きなんだ。旭、愛してる」
真剣な眼差しでそんなことを言われて余計混乱する。俺も楓さんのことが好きだけど、一体何が起こってるんだ……。
「……旭さ、前に俺の心はまだ前の旭にあるって言ったでしょ?」
「……うん……」
「あれね、あながち間違いじゃないんだ。旭を連れて帰ってきたときは前の旭が好きだった。だけど、真っ白なお前と生活してくうちに、今の旭も好きになった」
「うん……」
楓さんの落ち着いた声を聞くと真っ黒かった心がすうっと浄化されていく。あれだけ前の俺に嫉妬していたはずなのに、今は『前の旭が好きだった』とはっきり言われてもむしろやっぱりそうだったんだなってどこかで納得している自分がいた。
「前の旭も、今の旭も、好きでいちゃ駄目かな?」
「……ううん……いいよ……」
なんだ、楓さんが好きな知らない自分も認めちゃえば怖くなかった。
やっぱり楓さんは前の俺がいいんじゃないかって怯えてたけど、今の俺を好きになってくれたのならもう『今の俺だけを見て』なんて言わない。諦めたんじゃなくて、前も今も俺は俺だし比べるなんてやっぱり馬鹿げてた。
楓さんの話を聞いて、それでもいいかなって思えるようになれた。
「前の俺が好きでもいいよ……。今の俺も前の俺と同じくらい好きになってくれたら、嬉しいかな」
「もう同じくらい好きだよ。愛してる」
「っ、ふふ、楓さん……大好き……!」
やっと心が通じあえたんだ、と嬉しくてぎゅっと楓さんに抱きつく。
たくさん遠回りしたけど、やっぱり俺は楓さんがいないとだめなんだ。今も、きっと前の俺も。
楓さんもそうだといいな……。
「楓さん……楓さん、おかえりなさい」
「ん、ただいま、旭」
楓さんはそう微笑んで俺の唇に優しくキスをしてくれた。
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