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147.✧一色
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ゲストルームに入ると桜姉はベッドに腰を下ろした。俺はドアのすぐ近くの壁に寄りかかって桜姉が話し出すのを待つ。
「あの子、本当に記憶がなくなってたのね」
「冗談で言ってると思ってた?」
「そういうんじゃなくて……。ただ、思ってたよりショックが大きいというか……。まるまるすっぽ抜けてるじゃない」
「だから前にそう言ったでしょ」
こうやって桜姉がこっそり、旭に内緒で俺を呼び出す時は、大抵俺にとってどうでもいい事か嫌な事を言い出す。今回はどっちだろうか。
「でも、記憶はないのに仕草は同じなのよ……。アサくんだけどアサくんじゃないのね……」
「俺たちの知ってる旭は今は内側に隠れてるんだって。今は知らない旭が表に出てるだけ」
「ふふ、なにそれ」
「こう考えれば少しは楽だろって、ある人に言われた」
静輝が言ってくれた事を話すと桜姉は「素敵ね」と微笑んだ。
桜姉も桜姉なりに、記憶のない旭とどう接したらいいのか戸惑っているんだろう。旭の前で上辺はどうにか出来ていても、内側が戸惑っている。
「今日の二人を見るに、桜姉はうまくやれてたと思うよ。旭も心を開いてたみたいだし」
「それならいいんだけどね……。やっぱり不安よ……」
「そのうち慣れるでしょ」
「だいぶ……前のアサくんと違うけど……そうね、慣れるわよね。よし、頑張るわ!」
元気づけられたみたいで良かった。弱気なのは桜姉らしくないからな。話はもう終わりだろう、と部屋から出ていこうとすると、「楓」と呼び止められた。まだ何かあるのか……。
桜姉はベッドから飛び降りるとずいっと俺に顔を寄せた。こんな端正な顔立ちが間近にあったら普通の男ならドキドキするんだろうけど、俺は別の意味でドキドキしていた。何この胸ぐら掴まれそうな雰囲気は。
案の定、さっきのしおらしい感じとは打って変わって、桜姉は睨みを効かせるように下から俺の顔を覗きこんでいる。綺麗だしやたらと目力があるせいでとても怖い。
「っていうか、今のアサくん、楓一色じゃない!悔しい!」
「はあ……?知らないよ」
「私と全然イチャイチャしてくれないじゃない!おかしいわ!」
「おかしいのは桜姉の方でしょ。なんで人の恋人とイチャつこうとしてんの。旭は俺の恋人ですー」
くだらない姉弟ゲンカだ。こういう些細な事でも旭絡みになると子供っぽくなるのは俺も桜姉も同じらしい。もちろん俺の方が旭を愛してるけど。
「はっ、いっちょまえに惚気ちゃって!怒る気失せたわ!出てった出てった!おやすみ!」
「まったく……旭が絡んでくると超理不尽だな。おやすみ」
ぐいぐいと背中を押されてゲストルームから出る。桜姉と話すとどうにも疲れるんだよな……。どうせ明日も桜姉が旭にべったりだろうから、今のうちに旭を充電しておこう。
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