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159.✩筒抜け
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✩✩✩✩
桜さんからある程度は聞いていたけど、改めて詳しく聞かされた楓さんの実家はそれよりももっと複雑なようで、一族とか分家とか……ドラマや映画の中でしか聞いたことの無いような言葉が出てきて、なんとなく楓さんが遠い存在になった気がした。
お見合いのことも俺はただの部外者でしかなくて、それに当事者である楓さんの意思が無視されて進められてる気がして、胸が苦しくなって涙が出てきてしまった。楓さんが取られるかもしれないって本気で怖くなったのに、俺にはどうすることもできないのがすごく情けない。
それに、楓さんも手紙の返事を書けば都合よく受け取られることが分かってるからそうしないで放っておいたのだろう。でもちゃんと話をつけると決心してくれたみたいで安心した。
「楓さん……」
「なに、どうしたの」
「俺の記憶、戻ると思う?」
心が落ち着いてベッドに潜り込んだ俺は、ヘッドボードに寄りかかって寝る前の読書をしている楓さんに問いかけた。楓さんは本から俺へと視線を移してきょとんとしている。
「……俺は戻ると思うけど。ちょっとずつだけど戻ってるでしょ?」
「でも、最近は戻らないんだ……」
確か最後に記憶が戻ったと実感したのが、楓さんを……き、気持ちよくさせたい、って思った時だ。それ以来、特に戻りそうな気配もない。もし、このまま戻らなかったら……。
「焦らなくていいって。何をそんなに心配してるわけ?」
「だって……家族のことも思い出せないのって、なんか悲しくない?」
こんなことを考えてしまうのは、楓さんの実家の話を聞いてふと俺の家族ってどんな人たちなんだろうと思ってしまったから。
「まあ、そうかもしれないけど……。俺から話せることも少ないんだよな。旭の両親に関しては、俺より桜姉の方が詳しいと思うよ?」
「桜さん?なんで?」
いきなり桜さんの名前が出てきて、俺の両親と桜さんにどんな繋がりがあるんだろう、と思っていると、楓さんは小説をサイドボードに置いて布団に入ってきた。
俺、自分の家族ことは本当になにも知らなくて、それが当たり前のように過ごしてきたけど、ちゃんと知らないといけないんだ。早く家族に関しての記憶が戻ればいいんだけど……。
「桜姉はね、海外にいる時によく旭の親と会ってるらしいんだ。ついでに言うと、お前のことは俺から桜姉、桜姉から両親、って筒抜けになってるよ」
「えっ、初耳なんだけど!?」
「だって言ってないし。ふふ、あんまり悪さするとご両親に知られちゃうね?」
なんで今まで言ってくれなかったんだ、と楓さんの胸を叩くと、楓さんはからからと楽しそうに笑っていた。
「全然連絡がないから、蔑ろにされてるんだと思ってた……」
「そんなことないよ。旭の両親はすごく優しくて、旭のことを一番に思ってくれるような人たちだよ。だから、両親のこと知りたかったら手紙でも書いたらいい。メールでもいいけど手紙の方があの人たちは喜ぶと思うし、書けば桜姉が渡してくれるから」
「……うん……」
嫌われてるわけじゃないと分かって嬉しかった。
俺の記憶のことから両親のことに話題が逸れていたけど、でも一番気になっていたことを知れたから話を戻そうとは思わなかった。
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