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9.離れて気付いたこと-7
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恋。
それは、どんな気持ちになるのだろう。
(壱成を想っていた時の気持ちかな……)
でも、それとはまた違う気もする。
もっと複雑で、もっと胸が苦しい。
それに、夏を想って泣きたくなる時がある。
泣いて、夏の大きな背中に手を伸ばしたくなる時がある。
そんな事、しないのに。
そんな事、したくないのに。
三善は、一人、考えた。
誰の声も聞こえないほど、夏の事を考えた。
けれど、答えはでない。
全く出ない。
「僕は……」
「うわっ、マジかよ」
「え……?」
突然、小野口がテレビを見ながらそう言った。
そして、その声と同時に、食堂にいる全ての人間がテレビを見て、声を上げる。
それは、悲鳴のような声だった。
(なんだ? どうしたんだろう……)
三善は慌てて顔を上げ、小野口の先にある大型テレビに目を向けた。
テレビ番組は報道ニュースで、画面片隅に【速報】と大きく出ていた。
そして、画面が切り替わり、事故現場の映像が流れる。
『Richのメンバー、宮本夏さんが、ロケの途中に暴走した軽自動車から一般児童を守り、意識不明の重体になっているようですーーー……』
アナウンサーの女は、坦々と与えられた紙を見て述べていた。
冷静なその表情は、それが本当に起こった事なのか、本人に聞きたくなる。
「夏君、重体だって! 嘘ッ、死んじゃうのッ!」
「いやー、夏君死なないでーーーッ」
食堂はパニックになった。
泣き出す女や、その場で蹲る女もいた。
中には、仕事関連で接点があるディレクターや、ドラマに関係した人達もいたらしく、今の状況がどうなのかと、声を上げて周りに確認し始めていた。
そして、皆、スマホを取り出し、それが事実なのかとネットで検索し始める。
そんな中、三善はテレビ画面だけを見つめた。
炎上する軽自動車。
煙が空に向かい、ロケ場所の商店街の歩道には血痕が付着していた。
ーーー〝ミヤモト ナツ〟さんが………意識不明の重体になったようです……。
その血は、誰の物?
「……だっ」
三善は、事の現状を理解した。
夏が事故にあい、意識不明の重体になった。
「ウソだ………………」
そんな事、あるわけがない。
夢だ。悪い夢だ。
そう信じたいのに、周りの声が信じさせてくれない。
「嘘だよ……ッ……嘘だ……………」
夏がいなくなる。
笑ってくれなくなる。
側にいてくれなくなる。
「ッ……」
そう分かった途端、息ができなくなった。
身体が震えた。
怖くて、怖くて怖くて、呼吸の仕方が分からなくなった。
「おいっ、三善? オイって!」
三善は、小野口をその場に置き去りにし、走り出した。
何処へ向かっているのか、自分でも分からないが、その場にいる事ができなかった。
とにかく、この場から離れたい。
夏の名前を聞きたくない。
「っ……夏ッ……」
三善は走り出し、後先考えずにテレビ局を出た。
そして、ある男に電話を掛けた。
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