アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
11.愛と涙とその姿-3
-
夏の顔が見たいと思った。
でも、こんな姿を見たかったわけではない。
いつもの、笑顔の夏が見たかった。
「なつ……っ」
どうして、こうなったのだろう。
なぜ、夏だったのだろう。
「犯人はその場で捕まったようです……」
「そう…なんだ……」
「助けた子も、擦り傷ですんだみたいで……その子の両親が泣きながら夏をお礼を述べてました……」
「っ………」
三善は、壱成の話しを聞き、その場で泣き出した。
口を押さえ、嗚咽を殺し、大粒の涙を流した。
(夏……夏……なつ……………っ)
痛々しい傷。
その子をかばってできた傷。
夏は、本当にいい人だ。
いい人で、優しい人で、温かい人。
そんな夏が、今、生死を彷徨っている。
そんな理不尽の事があっていいのだろうか。
「……っがいだよ」
この世界に神様なんていない事は、子供の頃から知っている。
いくら願っても母親は迎えには来ないし、兄達に犯された時も、誰も助けにはこなかった。
「夏を……たすけて……っ」
でも、夏の事は助けて欲しい。
いないと分かっていても、そう願う事しかできない。
起きた時、三善の事を覚えていなくてもいい。
目を覚まして欲しい。
起きて欲しい、笑って欲しい。
ただ、それだけなのだ。
「三善さん……」
「僕はどうなってもいい……夏だけは…夏だけは助けて………っ」
蹲る身体を、そっと優しく包んでくれる壱成。
でも、その温もりは温かいのに、心は不安なまま。
何も満たされない。
夏でないと、もう、この心は熱を持たない。
安らぎが得られない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
85 / 192