アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
過去
-
「てめぇ、マジでいい加減部室は野球部に渡せよ!サッカー部なんか外で着替えてろ!」
野球部の部長である犬瑠が朝からぎゃんぎゃん喚く。
「あのさ、ちょっとうるさいから黙ってくんねぇ?本当に耳障り。
ていうかそもそも野球部なんて練習でドロドロになって部室汚すだろうし、掃除もどうせしないだろ?なら俺のサッカー部のほうが掃除だってするし丁寧に使うし俺らの方がいいだろ。」
サッカー部のキャプテンである奏羽が冷静な様子で鼻で笑いながら返す。
奏羽に言われたことは図星のようで、犬瑠は悔しそうに歯をくいしばる。
こんな喧嘩は毎日のことだが、なぜこのような喧嘩をしているかというと、サッカー部と野球部は立派な部なのだが、学校の問題で部室が足りず、サッカー部と野球部は共同で使うことになっている。
どちらかが折れればいい話だが、そうすると必然的に折れた方は校舎裏かどこかで着替えねばならないという事態になり、いろいろと不便になるので毎日のようにこの言い合いをしているということである。
とは言ってもこの部長同士以外はサッカー部、野球部の関係は友好的で、部室が共同なのもあまり抵抗はないため気にしているのは部長同士だけである。
「ぐっ・・・!つ、月1くらいは掃除するわはげ!」
犬瑠が怒りながら奏羽につっかかる。
「はぁ?うそつけよ、お前なんかどうせ部員が掃除しようって言っても、また今度でいいって~とか言いながら結局は年に2回するかどうかわからねぇくらいだろうが。」
奏羽のその言葉に野球部の部員たちは犬瑠なら十分ありえることなので何も言えずに、というか呆れながら立っている。
「あぁん!?てんめぇ・・・マジなめてんな・・・この、くそ屁理屈猿め!地へ堕ちろボケぇ!」
「あぁ!?このくそちび犬っころが!!」
そんな二人の本当にどうでもいい言い合いを見ながらある野球部員が呟いた。
「うーん、なんであの二人仲悪いんだろ・・・1年の時はすごい仲良くて親友、ってほどだったのに。」
その言葉に一人のサッカー部員が返す。
「んー、俺もそう思ってた、何があったんだろうなぁ。」
・
・
・
1年前
「うぉーい、かーなーるぅー・・・って、あれ、奏羽は?」
犬瑠がいつものように奏羽のクラスに行ったところ彼は不在だったようで、クラスメイトに問う。
「ん?あいつなら二組の高橋に呼び出されてたぜー、ほれ、あそこ。」
クラスメイトが指差す方向を見ると奏羽と高橋が二人で向かい合ってなにやら話しているのが見える。
「かっー、いいよなぁ、イケメンでスポーツ万能、勉強もできてその上優しいとか完璧かよ。マジ嫌味だわぁ。そりゃ告白もされるわなぁ。」
クラスメイトが心底羨ましそうに言った。
「・・・奏羽、高橋と付き合うのかな・・・。」
犬瑠は何故か心がチクリと痛み、悲しそうな顔をして呟く。
「お前何凹んでんだよー、そりゃ親友取られんのは悲しいかもしれねぇけどさ、ほら・・・俺らだって、お、と、こ、の、こ♡なわけじゃん?だから彼女くらいできたって不思議じゃねぇだろ!ましてやあいつだし。」
クラスメイトがふざけるように言う。
それに反発するように犬瑠が返す。
「ばっか、んなんじゃねぇよ、いんじゃね?あいつに彼女できようと俺関係ねぇし。」
犬瑠は突き放すように言った。
犬瑠はクラスメイトと話していたため、奏羽が帰ってきていたことに気付かなかった。
「おう!奏羽!いいなぁ、どうせ告白だろ?俺もされてぇなぁ。で?で??OKしたの?」
クラスメイトが鼻息を荒くしながら聞く。
「あー、まぁその話はまた後で。
犬瑠・・・。」
犬瑠に話しかけようとする奏羽。それを遮るように犬瑠が言った。
「ごめん、俺帰るわ。良かったな、告白されて。存分にイチャイチャすればいんじゃね?」
犬瑠はぶつけようのないイライラと悲しみを感じていた。
「は、おま、何言って・・・」
「んじゃ、マジ帰るわ」
そして不機嫌そうに犬瑠は扉を閉めて教室を出ていった。
「なになに?あいつどしたん?なにすねてんの?」
クラスメイトが困惑した様子で奏羽に問う。
「知らねぇよ・・・。なんだよ、あいつ・・・」
犬瑠に突き放すように言われた奏羽は不機嫌そうに言ったが、内心悲しみなどでいっぱいだった。
なぜ自分にあんな風に言ったのか理解できなかった。
下校時刻になり、奏羽と犬瑠は部活が終わる時間も帰り道も一緒なので当然のように一緒になる。
いつもの下校の二人の間では話が絶えないのだが、今日は沈黙だった。
「あのさ、犬瑠。何怒ってんのか知らねぇけど、何か嫌なことあったなら言ってくんねぇ?俺わかんねぇしさ。」
そう言って沈黙を破ったのは奏羽だった。
「別に。なんも怒ってねぇから。」
しかし、明らかに怒っている様子が奏羽にはわかったので、奏羽も若干いらつきながら言った。
「はぁ?ほんとなんなの、そんな明らかに不機嫌な感じで言われると俺もイラつくんだけど。」
「・・・・・・」
「・・・何黙ってんだよ。あー・・・マジめんどくせぇな」
奏羽が若干ため息をつきながら言った。
「・・・っ!なんだよめんどくさいって!うっせぇな!てかなんでお前は俺と一緒に帰ってんだよ!お前には高橋いるんだからあいつと帰ればいいじゃねぇか!確かあいつもこっちだろ!」
「は!?いきなりなんなのお前、俺とお前はいっつも一緒に帰ってたんだからんなこと言われても困るし!つか高橋も確かにこっちだけどあっちだって一緒に帰る友達いるのに帰るわけねぇだろ。てか、そもそも俺は高橋とは・・・」
奏羽が言いかけると
「っっ!うっせぇ!いちいち言わなくていいんだよ!付き合ってんのわかってるしさ!どうせ明日からいちゃいちゃするんだろ!なら一緒に帰ればいいじゃん!高橋の友達だって理解してくれるだろ!」
これ以上聞きたくないという風に犬瑠が早口で言った。
「はぁ!?お前何言って・・・」
「俺、もう帰るから!」
奏羽の言葉を遮るように言った。
「は、ちょ、おま、待てよ!」
その言葉を無視するように犬瑠は全力疾走で家まで帰った。
自宅まで帰った犬瑠は自己嫌悪に陥っていた。
「あー・・・アホだな俺ほんと・・・。なんであんなこと言ったんだ・・・。てか奏羽に彼女できただけでなんでこんなに苦しいんだよ・・・。知らねぇよ、こんな気持ち・・・。」
犬瑠は涙を流しながら呟いた。
数日後、友人から奏羽は高橋とは付き合ってないと聞いたとき安心した。
だが、あんな大喧嘩をした手前、流石にどんな顔をして話せばいいかわからなかった。それは奏羽も同じだったようで、二人は自然と話さないようになってしまった。
それから一年が過ぎ、先輩が受験のため引退したあと元々エースだった二人は当然の如く部長になった。
前部長たちは部室を共同で使うことに抵抗がなく、仲も良かったため、現在の彼らのようにはなっていなかったのだが、彼らはその一件のせいで折り合いが悪くなり、謝ることもできぬまま現在に至る。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 12