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続・拾われてあげる。
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胸元まで伸びた黒髪を木櫛で丁寧に梳かす俺の飼い主。毎日毎日よくも飽きないものだ。呑気に鼻歌まで歌って。
あれから1年経っただろうか。また鬱々とする季節。窓の外は薄暗く、アスファルトを弾く激しい雨音が聞こえた。
この1年で家族や学校がどうなったかは知らない。飼い主は知っているのかもしれないが、俺から尋ねることもなく、飼い主からも口を開くことは無かった。
「零の髪は本当に綺麗だねぇ。ツヤツヤで指通りも良いし」
「そりゃ、あんたが毎日手入れしてるからだろ」
「ふは、違いない」
振り向かなくても背後でクス、と笑っているのがわかった。
「……あんたは」
口から零れかけた言葉を飲み込む。そんな小さな呟きにすら反応をするのが飼い主だった。
「ん、なぁに?」
ゆっくりと櫛を動かしながら問いかける。
「なんでもない」
「何でもないことないだろ?言ってごらん」
「本当に何でもないって」
「隠し事はだめだよ?」
言おうか言うまいか。ぐるぐると頭の中で考えているうちに毛繕いは終わってしまったようだった。
「いや、なんであの時俺のこと拾ったんかなーって、あはは」
返ってくる言葉なんてわかっているのに何を期待しているのか。
「え?面白そうだったから」
ほらな。これだけ。きっかけなんて何でもいいけれど、少しだけ胸の奥が重たくなった気がした。
「はは、知ってる」
そういうやつだったなアンタは、と適当に笑い流した。沈んだ気持ちを隠すように、気まぐれを装い飼い主の首筋に擦り寄る。
これはきっと、関わりのある人間が飼い主しかいないから妙な情が移っただけなのだ。それ以外に特別なことは何も無いと自分に言い聞かせ、瞳を閉じた。
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