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グロテスクな春
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しとしと降り続く季節外れの雪とアスファルトの上の大きな水たまり。僅かに残った雪山に、車が濁った水を撒き散らす。融雪剤や排気ガスですっかり黒ずんだ雪山に泥水が撥ねる。
毎年見慣れている風景が今日は何故か吐き気がするほど汚く感じた。
雲の隙間から太陽の光が突き刺してくるというのに、未だジャケットの上に大きな粒が落ちては溶けていく。
(空から落ちてくる時は真珠みたいなのにな。)
地面まで落ちていく雪を目で追いながら、ぼんやりと行くあてもなく歩く。
いや、目的地はあるにはあったのだが、とても行く気にはなれず、「ごめん、行けなくなった」とだけ簡単に返信を送った。
特段何かショッキングなことがあっただとかそんな訳ではないのだが。
ただ過去の記憶が呼び起こされた、思春期特有のセンチメンタルに決まっている。いっときの気分なんかで、初めて彼との予定を断ってしまった。
握りしめたスマホが短く振動する。彼からの返信を確認すると「了解」の2文字。それに続いて俺を心配するかのような文面の後、またの機会、だなんてビジネスメールみたいだ。
この距離感が心地よかったはずなのに。
明日登校すると彼はきっと何も聞かず、普段通りの笑顔で話すのだろう。今からでも分かる反応を想像しては胸の中を掻きむしりたくなった。
怒られることも、責められることもない。それに安心感すら感じていたはずなのに、何故か少しだけ違和感と物足りなさを感じてしまうのだ。
水分を吸って重たくなった前髪から雫が落ちる。
真珠のような雪粒はただの水。
一面真っ白だった綺麗な景色はいずれ溶けるし、溶けてしまえばこんなに真っ黒。
この恋心だって、きっと。
蓋を開けば都合のいい依存相手。そんなことを彼に気が付かれるのも時間の問題だ。
(だったら、今楽しまなきゃ)
冷えきった指先で彼へ電話をかける。きっと彼は出てくれる、そんな確信があった。
「……はい。どうした?」
3コールめに聞こえた彼の声は普段と何も変わらない。
「やっぱそっち行っていい?」
彼は駄目だなんて言わない。分かっていて許可を求める。すでに俺の足は彼の自宅を目指し歩き出していた。
「いいよ。気をつけておいで」
「ん」
短く返事をしてスマホを仕舞った。
まだ愛されていることを実感しては安堵する。彼を振り回しているのではないか、そんな罪悪感を持つのは彼への愛情なのか。
道行く道に残っている小さな雪山の黒ずみが視界にちらつく。
愛情なんかじゃない、と笑われた気がした。
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