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売り言葉に買い言葉
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一年に一度のカーニバル。
チョコレートに愛を込め好きな人に渡す日。
それがバレンタインデー。
自慢じゃないが、俺は考えることが苦手だ。考えるより先に体が動く。子供の頃からひとつのことに夢中ななると他が目に入らなくなる。
友達からは単細胞、鉄砲玉、イノシシとか言われ、親には事ある毎に『もう少し落ちついて、行動する前に考えなさい』と言われる。
考えることは本当に苦手だ。
そんな俺がない知恵を絞って考えていた。それはもう知恵熱が出るほどに。
アイツの言葉を思い出す。
ことの発端は売り言葉に買い言葉だ。
「愛がない」
部屋でゲームをしていると、俺の隣に座るアイツが唐突につぶやいた。
「あいぃ〜?」
「そうだ。オマエは愛がない」
「俺? あいがない? ないって?」
「愛がないから"ない"って言ってんだよ」
「だから、あー! クソっ!ちょっと待て!!何でこんなとこにモンスターがいるんだよ!」
突然襲ってきた敵を倒すために、俺はコントローラーを連打する。
ネットの攻略サイトにはこのエリアでモンスターに遭遇しねーってカキコミあったのに。
マジかよっ!
しかも通常モンスターより超攻撃力が高いんですけど!これってレアイベント!? だからサイトに出てなかった? だったらすっげーオイシイけど、今のスキルじゃ絶対に勝てない。
自分のHPを削られつつも、モンスターの隙をついてなんとか戦闘から離脱することに成功した。
「はー、今のマジヤバかった。死ぬかと思った。ありえねーよな、こんな平原でイキナリ…」
突然、テレビの画面が真っ暗になる。
え? え? 何? 停電???
俺はとっさに辺りを見渡す。
すると片手にゲーム機のプラグを持ったアイツと目があった。
「あー!!!ひでぇ!!!!ナニ電源切ってんだよ!!このダンジョン、まだセーブしてないんだぞっ!鬼!悪魔!!ヒトデナシ!!!」
「オレが遊びに来てるのにゲームばっかやってんじゃねーぞ」
「はぁ? だからって電源切るとかねーだろ!」
「電源が入ってたらまだゲームを続ける気だろ」
「当たり前だ」
「だからオマエには愛がないんだよ」
「さっきからなんだよっ。意味わかんねーんだけど」
「ゲームばっかやってないで、少しはオレの相手もしろってことだ」
「はぁ〜? ってか、ソレ、どこのオトメ的発想? いいじゃん別に、一緒にいんだし」
「そーだな、確かに一緒にいるな。でも一緒にいるだけならただの友達と変わらない。同じ部屋にいてもオマエはずーーっとゲームばっかりやってるし。そりゃオマエはゲームをやってれば満足かもしれないけど、オレは楽しくない。ゲームはオレがいなくても出来るだろ。これじゃあ一緒にいてもひとりでいるのと同じだわ」
そう言うとアイツはコンセントにゲーム機のプラグを差し込んだ。
そして床に置いていたカバンを肩にかけ立ちあがる。
「帰る」
「えっ、ちょ、帰るって」
「オマエは好きなだけゲームしてな。じゃあな」
俺はとっさにアイツのブレザーの袖を掴んだ。
「…なに?」
感情のこもらないアイツの声に、言葉が出てこない。
俺はどうしたい?
これがゲームならここで選択肢が表示されて選ぶだけなのにっ。
「手、離せよ」
考えろ。考えろ、俺!
ゲームならこの場合の選択肢はどう表示される?
手を、"離す" or "離さない"。
離さない。
じゃあ次は?
何か、"話す" or "話さない"。
話す。
"引き止める" or "引き止めない"。
引き止める!!
「あ…えーっと、その、外、明るいぞ。まだ帰らなくていいじゃん」
「ゲームやりたいんだろ」
「いや、今日はもういい」
「ふーん。ゲームやらないんだったら何するんだ」
「あ、えーーっと……しりとり?」
軽くため息をついたアイツはブレザーを掴んでいる俺の手をそっとはがし、はがした手を握ってきた。
「オマエさ、本当はオレのこと、どう思ってる? 友達? それとも恋人?」
「恋人!」
"友達" or "恋人"、この選択肢に俺は迷わず即答した。
「じゃあ、オマエは恋人と一緒にいてやることがゲーム?」
"ゲーム" or ………、うわ、どうしよう!選択肢が浮かばない!
脳ミソがカラ回りして次の言葉が出てこない。
普段から物事を深く考えないツケをこんなところで払わされるなんて思ってもいなかった。
「えーっと、うーんと、その、ほら…」
「思いつかない?」
「あ……うーん、と」
「だろうな。だからオマエには愛がないんだよ」
「愛がないって、さっきも言った。どういうこと?」
「オマエはオレのことを愛していない。せいぜい"友達の中で一番好き"なだけだろう。一番好きな友達に告白されたから、自分もそういう意味で好きって流されて付き合ってるだけだ。一番好きな友達=恋人、と勘違いしてるんだよ」
「違う!流されてなんていない!俺はオマエのことちゃんと恋人として好きだよっ!!」
「無理しなくていいよ。オレのことを好きなのは本当だろうけど、好きと愛してるじゃあ意味が違うから」
「無理なんてしてない!俺だって、あ、あ、あ、愛しちゃってるし!」
「じゃあ証明して」
「ほえ?」
「オレのことを愛してるって、証拠をみせてよ」
しょ、証拠? 証拠って。
愛の証明ってどうやるんだ?
グルグルと俺の脳ミソはまたカラ回りをはじめる。
「証拠をみせれないなら、帰る」
「あっ!ちょっと待った!!」
アイツの手を握り締める。ここで帰したらダメだ。このまま帰すのがダメなことはわかるけど、いい選択肢が浮かばない。
どんなに考えても愛の証明の仕方なんて解らないよ。
あ。
そうだっ!セーブだよ、セーブ!!
ゲームなら一度データをセーブして、日をあらためる。今日はここがセーブポイントだ。
「しょっ、証明するから時間をくれ」
「時間? 時間があれば証明が出来る?」
「ああ。お前が腰を抜かすような証拠をみせてやる!」
「そう。期待せずに、楽しみしてる」
「その日本語おかしいからっ!」
アイツは楽しそうに笑った。
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