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春【4~6月】 ◆1ーネクタイー
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朝は大抵バタバタと忙しなく過ぎ去る。
ここ青心寮も例外ではなくて、朝練後にシャワーにご飯、それから登校の準備。寮生全員、毎日の事とは言え、一分一秒が貴重な時間である。
「御幸先輩ーーーー」
「今日もお願いしやっす」
沢村は、朝練後にシャワーを浴びて、まだ湿り気を帯びた所々跳ねたままの少し耳にかかる焦げ茶色の髪の毛を揺らしながら、勢いよく御幸の部屋のドアを開けて入ってきた。
第一声はいつも、この「お願いしやっす」。人の…ましてや先輩の部屋に来るのにノックもなく失礼しますの一言もないのかと呆れるけれど、何度言っても直らないから、それが沢村なんだし仕方ねえなと諦めた。そして、御幸も懲りずに毎朝同じ言葉を発する。
「おまえはー、いい加減覚えろよ…」
差し出された沢村の左手にたらんと下げられているネクタイを奪い取り、沢村の顎をくいっと持ち上げる。
「ほれ、ちょっと上向け。ったく、ボタンぐらい自分で留めてこい」
「だってなー、上まで留めると苦しいんだよ」
そう言って、御幸が一番上のボタンを甲斐甲斐しく留めてやるところから始まるのも、もはやルーティンワーク。
入学式当日に、洗面所の鏡の前で一人でず~っと「あーでもないこーでもない。でーきーねーえーー」と叫んでいた沢村を偶然発見し、見てらんなくて結んでやったのが運のつき。それ以来、未だに毎日、沢村専属のネクタイ係となっている。
「ネクタイ結ぶの全然覚えられねえー!すぐ曲がるし、ここの三角の固まりも三角になんねえしさ!」
「練習しろ、練習。野球ばっかやってねえで、他のことも出来るようになれよ、バカ」
「あ、ひでえ、これでもこの沢村栄純、毎日様々なことに取り組んでましてですねー、きょうm「ほい、できた」」
胸元をポンと叩かれた沢村が、つけられたばかりのネクタイに目をやると満面の笑みを浮かべた。
「あざーっす!やっぱ御幸がやると早いし綺麗だな!」
「御幸『先輩』な?沢村」
「おう!また、明日もよろしくな、御幸先輩」
「お前、覚える気ないだろ?」
「うん?そう思いやす?」
ニヤリと笑う沢村に逆に質問返しさせられた。
だめだな、こりゃ…
「んなことより、遅刻しやすよ、センパイ!」
「わーってるよ、遅れたら沢村のせいだかんな」
「うえー、何でそうなるんすかー」
「センパイ命令♪てことで、ほら行くぞ」
沢村の背中をポンと押して、御幸は先に部屋を出るから、沢村も「パワハラだろ、それ!ひでえな、御幸」と言いながら、御幸の後を追いかけるのであった。
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