アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
総隊長の決意
-
珍しく櫻川は焦っていた。
廊下をものすごい速さで駆け抜けていく。
その姿に誰もが振り返り、二度見する。
あの櫻川碧が
大和撫子が
総隊長様が
たくさんの瞳が櫻川を見つめるなか、ただひたすら前を向いて走り続ける。
ある教室の前に辿り着くと、そのまま扉を引いた。
突然の来訪者に、目を見開き、動きを止める。
誰もが微動だにしないなかで、櫻川は二回ほど顔を動かすと、窓際で黄昏一人鼻歌を歌っている人物の元に行き、多少息を乱しながら声をかけた。
「阿南、少し話をしたい」
その声にゆっくり振り返った阿南の瞳は愉快そうに細められていた。対して櫻川は他の生徒からは後ろ姿しか見えないが、眉間に皺を刻みどうにか怒りを押さえこんでいる、そんな顔であった。
もし他の生徒にこの顔が見えていたら驚愕したことだろう。
「珍しいね、あっちゃんが僕の教室に来るなんて。明日雪でも降るのかな?」
「あちらで話そう」
阿南の言葉を軽くスルーすると、返事も聞かず踵を返す。
それにますます瞳を細め、鼻歌を口ずさみながら阿南はその後に着いていく。
モブと化した他の生徒達は、目を丸くし二人の動向を眺めているだけだった。
空き教室に入るとカチャリと中から鍵を掛ける。
「どういうことか説明しろ」
「なんのこと?」
「太一さまのことだ。なぜ親衛隊からの制裁を受けている」
「え~、何故ってそれは~・・・・生徒会役員様から命令されたからだよ」
「・・・・・・ッ!それでも何故!お前はあの方に・・・っ!」
「あっちゃんこそ、やっと気付いたの?太ちゃんの制裁が始まってから、もう二週間は過ぎてるけど、いくらなんでも遅すぎじゃない?」
「それは・・・・っ!」
「あっちゃんが太ちゃんのために裏で色々してたのは知ってるよ?親衛隊総隊長としてじゃなく櫻川碧個人として太ちゃんを守ろうとしてたんだよね。でもそれってさ結局無駄足だよね」
「な、に?」
「太ちゃんは今のこの状況を楽しんでるの。あっちゃんの行動はそれを潰すことになるんだよ」
「違うっ!僕はっ!」
「あっちゃんは太ちゃんを否定してるの」
櫻川の顔が悲しみに歪む。
「そもそもなんで親衛隊総隊長であるはずのあっちゃんに制裁の話がいかずに直接僕達の方にきたか分かる?あっちゃんは太ちゃんしか見えてないんだよ。太ちゃんの為に親衛隊を牛耳るなら僕みたいに上手くやらなきゃ」
櫻川は下を向いたまま「僕は僕は」とブツブツ口を動かす。その声は蚊の鳴くような、気を付けなければ聞き漏らしてしまう弱々しいものだった。
「親衛隊総隊長のまえに、あっちゃんは会長親衛隊隊長でしょ?その会長に信用されてないんじゃ隊長として失格なんじゃない?」
どんどん近く、大きくなる阿南の声。
「それじゃあ、太ちゃんを守れないよ」
跳ね上がるように顔を上げたその先、目の前に阿南のどこか小馬鹿にしたような、今の状況を楽しんでいるかのような顔があった。
阿南は櫻川の驚愕に歪む顔を楽しそうに舐めるように見つめる。
「ふふっ」
鼻と鼻がくっつきそうな距離で笑うと身を翻し軽やかな足取りで出口まで進んでいく。
ダンッ!!
櫻川は怒りをぶつけるかのように机に拳を叩きつけた。
白く綺麗な手が赤く、傷つこうとも厭わない。
「それでも僕は僕のやり方であの方を守る!」
阿南は、櫻川の強い意志の込められた声にも振り向くことはなく、変わらず足取り軽く部屋を後にした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
48 / 128