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荒れ狂う駄犬
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「くそがっ・・・・!」
脇坂は最高にイライラしていた。
ただでさえ鋭い目をさらに鋭く吊り上げ、威圧感たっぷりに歩く。
脇坂が歩くたびモーゼの十戒のごとく人が避けて通る。
けして目を合わそうとはしない。
何事もなく自分の横を通りすぎてくれることを切に願うのみである。
そもそも脇坂がこんなにもイラついているのは、飼い主でもある長山が制裁にあい始めてからだ。
まだ直接的な被害はないが、何かをされそうになっただの、何かが頭の上から降ってきただの聞いた日には、首謀者である生徒会の連中と親衛隊のチビどもをぶん殴りたい衝動にかられる。
くそ腹立つ
顔だけのろくでなし野郎どもにも
何もできない自分自身にも
苛つきながら、周りにガンを飛ばして歩いていると廊下の隅に小さい奴等が固まっているのが見えた。
嫌な予感に脇坂は足を速める。
近づくにつれ、より鮮明に聞こえる言葉たち。
「いい気味」
「これで思い知ればいいんだ」
「消えろ」
思わず耳を塞いでしまいたくなるような罵詈雑言の数々。
それに眉間の皺を深くし脇坂は隙間からその央を覗きこんだ。
人だかりのすぐ隣が階段だったらしく、そこにいる全ての視線が下の階へと続く踊り場へと集められている。
階段には水が溢れ、その水は段差を伝って踊り場まで流れている。
水の流れを追うように目を動かしていた脇坂は、驚き固まった。
視線の先には、今頭の中を埋め尽くしている長山がいた。
どうやら水は下にいた長山にむかってかけられたものらしかった。
幸いにも長山に水はかからず、靴を少し濡らしただけのようだが。
これが本当に頭から水を被っていたら、いくら暖かくなってきたといってもまだ春先だ。
風邪をひく可能性だってある。
そこまで考えて脇坂の頭は一気に沸騰した。
誰だっ!どいつが・・・・っ!
残った僅かばかりの理性で周りの様子を把握する。
すると脇坂はあることに気づいた。
ここには今二種類の人間がいる。
一つは嬉々とした顔で長山を罵っている者。
一つは苦虫を噛み潰したような顔で長山を睨み付けている者。
こいつらか・・・・っ!!!
バケツいっぱいの水まで用意して濡らしたのは靴の先だけ。
つまり今回もまた長山太一への制裁は失敗したのだ。
それなのに嬉々とした顔なんてできるわけない。
そんな顔ができるのは何も分かってない親衛隊に属してない一般生徒だけ。
親衛隊の連中は、悔しくて罵るどころではないだろうから。
脇坂の瞳が標的を捉える。
指をポキポキ鳴らし、ゆっくりと足を踏み出した。
標的まであと少し。
大きく腕を引き振りかぶる。
・・・・・・・っ!
その時鋭い視線に脇坂の体は動きを止めた。
この視線はよく知っている。
ギギギとロボットのように振り向くと、視線の先の瞳とかち合った。
『待て』
声を出さず、小さく動かされた口はたしかにそう言った。
その意味を正確に読み解いた脇坂はチッと盛大に舌打ちをするとイライラした足取りで踵を返した。
自室のドアを乱暴に開け、ズカズカと中へと入る。
リビングのドアを開けると、同室者である倉橋が優雅に紅茶を啜っていた。
「お帰り、随分ご立腹なようだけど何かあったのかい?」
脇坂は何も返さず、荒々しい足取りで共有スペースを抜けると部屋へと入っていった。
すぐに何かが激しくぶつかる音が中から聞こえてくる。
「ワンちゃん荒れてるね」
緩く微笑む倉橋だったが、その瞳だけはいっさい笑っていなかった。
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