アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
飼い主の居ぬ間に
-
「なんで太一がいないんだよ!何処に隠したんだ!太一は俺がいなきゃ独りなんだよ!」
長山と桐生が対峙する少し前、隔離校舎にいきなり乗り込んできた遠山は訳の分からないことを喚きながらヒステリーをおこした子供のように大声で騒ぎ立てていた。
「出せ出せ!太一を出せよ!」
しかし、喚き散らしている遠山と反対に周りは静寂を貫いている。
それは飼い主の許しがまだ出ていないから。
「あっ!お前!」
そんな中、遠山の瞳は一際目立つ紅い髪を見つけた。
「お前が隠してるんだろ!」
「なんの話だ」
「嘘つくなんていけないんだぞ!謝ったら許してやるから早く太一を出せ!」
柏木は眉間に皺を刻みつつも遠山の言葉にはいっさい耳を貸さず受け流す。
もしこれが脇坂なら、理性の糸が切れ、間違いなく遠山に掴みかかっていたことだろう。
しかし、こうも大声で騒がれるとさすがの柏木でも我慢の限界がやってくる。
その証拠に柏木の拳はギリギリと固く握りしめられている。
それは周りにも言えることで、いつ理性の糸が切れ爆発しても可笑しくない極めて危うい状態である。
それに気づいていないのは、今なお教室の真ん中で騒いでいる遠山ただ一人。
「こんなとこにいたら太一はダメになっちゃうんだ!太一は俺といなきゃダメなんだ!」
遠山の言葉は間違いなくここにいる者達を蔑むものだった。
見かけで判断しては駄目だと自分で言っておきながら、一番見かけで判断しているのは自分だということに、言動が矛盾しているという事実にはたして何時気づくのか。
「・・・・・・っ!てめぇいいかげんに・・・・っ!」
誰かが叫び、誰かの糸が切れる直前
ガラリ
教室のドアが静かに開けられた。
「・・・・・・遠山?」
「太一!何処行ってたんだよ!俺と一緒にいなきゃダメだろ!」
「ごめん、良い天気だから外で本を読んでたんだ」
「謝ったから許してやるよ!俺は優しいからな!」
「・・・・・ありがとう。ところでさっき桐生会長が探してたみたいだけど」
「あ、そうだ!皆でお菓子食べてたんだ!?」
「そうなの?だったら早く戻った方がいいんじゃない?」
「おう!太一も一緒に行こうぜ!」
「俺は遠慮しとくよ」
「えー!?なんでだよ!」
「明日の授業の予習をしなくちゃいけないんだ。俺は遠山みたいに頭良くないから」
「そうなのか?それだったら仕方ないな!俺頭良いし!太一はバカなんだな!じゃあ、それが終わったら来いよな!」
言い終わるや否や遠山はガラガラバシャンと盛大な音を立てドタバタと何時かのように廊下を駆けぬけていった。
「気が向いたらな」
小さく呟いた長山の瞳は前髪で隠れ窺い知ることはできなかったが、その下の唇は綺麗な弧を描いていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
55 / 128